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加熱"その場"X線タイコグラフィを実証 -合金粒子の融解過程をナノスケールで観る-

【概要】

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター理研RSC-リガク連携センターイメージングシステム開発チームの高橋幸生チームリーダー(東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター教授)、石黒志客員研究員(同助教)らの共同研究チームは、微小加熱ヒーター機構付き試料メンブレンを用いた「加熱その場X線タイコグラフィ[1]」により、スズ-ビスマス(Sn-Bi)合金粒子[2]の融解過程のナノスケール観察に成功しました。

本研究成果は、X線タイコグラフィを用いた触媒系・電池系などさまざまな実用材料系の反応・作動時のその場イメージング[3]に貢献すると期待できます。

X線タイコグラフィの高い空間分解能は、試料周辺の温度変化による熱ドリフト[4]を抑制することで実現されています。しかし、熱ドリフトの抑制は、高温条件下における試料観察の妨げにもなっていました。

今回、共同研究チームは、X線タイコグラフィの高空間分解能を維持しつつ、加熱条件下で試料を計測するため、試料加熱部分を最小限にした微小加熱ヒーター機構付き試料メンブレンを新たに作製しました。大型放射光施設「SPring-8 [5]」において、Sn-Bi合金粒子をこのメンブレンに担持させ、室温から267 ℃まで加熱しながらX線タイコグラフィ計測を行い、得られたデータを位相回復計算[6]により画像再構成しました。その結果、加熱によってSn-Bi合金粒子内部の共晶組織の相界面が移動、消失し、最終的に粒子が融ける様子を25ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)の分解能で観察できました。

本研究は、科学雑誌『Microscopy and Microanalysis』に(8月28日付)に掲載されました。そのほか、科学雑誌『Microscopy Today』の11月号のHighlights from Microscopy and Microanalysisで紹介される予定です。

加熱その場X線タイコグラフィによるSn-Bi合金粒子融解過程のナノスケール観察の概念図

【用語解説】

[1]X線タイコグラフィ
コヒーレントX線回折イメージング手法の一つ。X線照射領域が重なるように試料を二次元的に走査し、各走査点からのコヒーレント回折パターンを測定する。そして、回折パターンに位相回復計算を実行し、試料像を再構成する手法。

[2]スズ-ビスマス(Sn-Bi)合金
鉛フリーはんだの一つとして知られる共晶合金。Sn/Biの組成比に応じて幅広い融点の合金を作り出すことができる。

[3] その場イメージング
イメージング装置の中で試料に反応を生じさせ、その様子をリアルタイムにイメージングすること。

[4]熱ドリフト
試料や装置の温度が変化することによって、試料や装置が熱膨張、熱収縮し、観察領域が勝手に動くこと。

[5]大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。その利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。

[6]位相回復計算
光の強度情報から光の位相情報を回復する計算。反復法が用いられることが多い。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

国立大学法人東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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