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オートファジーによる腸管恒常性維持メカニズム 〜いわゆる「善玉菌」が腸管炎症の原因となるしくみ〜

【発表のポイント】

  • 腸管の上皮細胞でオートファジー(注1)の機能が低下すると、腸管幹細胞の分裂が過剰になり、腸管バリア機能(注2)が破綻、寿命の短縮がおきることを、ショウジョウバエモデルを用いて明らかにしました。
  • オートファジーは、腸管幹細胞(注3)分裂を促すためのシグナルプラットフォーム(注4)を分解して、過剰なシグナル活性化を防いでいるという機構を示しました。
  • オートファジー機能が低下すると、腸内常在菌に対して病原菌に対するような応答が起き続けることで、慢性的な炎症状態になることを示しました。
  • 本研究成果は、オートファジー不全が原因であるクローン病などの炎症性腸疾患の発症機序の解明や新規治療戦略の開発につながることが期待されます。

【概要】

指定難病であるクローン病は炎症性の腸疾患で、発症の遺伝的要因の1つとしてオートファジーの機能不全が知られています。また、その病態は腸内細菌や腸管感染性ウイルスによって悪化します。しかし、オートファジー機能不全が病態を生じさせる機構や、腸内の微生物が病態に影響を与える機構は明らかになっていませんでした。

東北大学大学院薬学研究科の矢野環准教授らの研究グループは、ショウジョウバエをモデル生物として、腸管上皮細胞でのオートファジー不全が腸内常在菌に対して過剰な修復応答(注5)を起こすこと、これが慢性的に続くことで腸管バリア機能が低下して全身炎症が生じることを見出し、その詳細な仕組みを解明しました。本研究の成果は、炎症性腸疾患の発症機序の解明や、治療薬の開発につながる重要な基盤的知見です。

本研究成果は、1月4日付けでDevelopmental Cell誌にオンライン掲載されました。

【用語解説】

(注1)オートファジー
細胞内の物質分解系。2重の膜で細胞内物質を囲い込み、リソソームに送り込むことで分解する。様々な物質のターンオーバーに働くほか、特定の物質をターゲットとすることがある(選択的オートファジー)。本研究成果では、選択的オートファジーが重要な役割を担っている。

(注2)腸管バリア機能
腸管の管腔内には腸内細菌や経口摂取した物質があり、それが体内に漏れ出ないように、腸管上皮細胞の接着が物理的なバリアとして働いている。近年の研究から、腸管バリア機能は腸管の免疫系と腸内細菌の相互作用によって異常をきたす場合があり、バリア破綻は種々の炎症性疾患の原因となることが明らかになってきている。

(注3)腸管幹細胞
腸管上皮組織にある未分化な細胞。これが増殖、分化することで、上皮組織の新陳代謝が行われる。上皮細胞が損傷を受けると、腸管幹細胞の増殖が活発になり、損傷が修復される。

(注4)シグナルプラットフォーム
細胞内のシグナルを活性化する「場」。細胞内シグナルを伝達する分子が会合することで、効率的なシグナル伝達が行われる。

(注5)修復応答
組織を構成する細胞に損傷が生じた場合、損傷細胞を除去し、それを補う応答が起きる。ショウジョウバエのみならず、ヒトの小腸にも腸管幹細胞があり、これの分裂と分化が腸管上皮組織の維持に重要である。修復応答は損傷の程度に応じている必要がある(恒常性の維持)。したがって、修復応答が不足して損傷を補填できない場合に加え、過剰な損傷応答が起きてしまう場合も、腸管バリア機能の破綻が生じることが明らかになりつつある。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学大学院薬学研究科
担当 矢野 環 准教授
電話 022-795-4555
E-mail: tamaki.yano.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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