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サリドマイド催奇性を引き起こすタンパク質の発見-サリドマイドによる副作用のメカニズムを提唱-

【概要】

サリドマイド1)は半世紀以上前に妊婦における睡眠導入剤として世界中で使用された薬剤ですが、服用した妊婦から生まれた胎児の四肢に重篤な催奇性2)を示したことから、サリドマイド薬禍といわれるほどの世界規模の薬害問題を引き起こしました。その後、ハンセン病や多発性骨髄腫に対する薬効が認められ、現在、サリドマイドやサリドマイド誘導体 (レナリドミド及びポマリドミド) は厳格な安全管理のもと、多発性骨髄腫などの血液がんに対する治療薬として年間約1兆円の規模で使用されている非常に有効な薬剤です。サリドマイドやサリドマイド誘導体 (Immunomodulatory drug /IMiD3))は、タンパク質分解酵素であるE3ユビキチンリガーゼ4)の構成因子のひとつであるセレブロン(CRBN)へ結合することにより、様々なタンパク質の分解を誘導し、その結果、多様な薬理作用および副作用を示すことが明らかとなっています。

これまでに、胎児の四肢発生に重要な役割を果たすタンパク質SALL4 (Sal-like protein 4)が、IMiD依存的にCRBNによって分解誘導されることが報告されていました。また、最近我々はサリドマイドが体内で代謝されて生じる水酸化体(5位水酸化サリドマイド)5)が、サリドマイドよりも効率的にSALL4に作用するメカニズムを構造解析によって明らかにしました。しかしながら、サリドマイドやサリドマイド誘導体によって引き起こされる催奇性のメカニズムに関しては未解明な点が多く残されており、SALL4以外の原因タンパク質の存在が示唆されていました。

【用語解説】

1) サリドマイド
睡眠作用および免疫調整作用を持つ低分子薬剤であり、多発性骨髄腫などの血液がんやハンセン病による2型らい反応に対する治療薬として利用されている。

2) 催奇性
薬剤などのある種の物質が生物の正常な発生を阻害して奇形を生じさせる性質や作用のことで、催奇形性と同義で使われる。

3) Immunomodulatory drug/IMiD
サリドマイドやその誘導体の総称であり免疫調整薬とも呼ばれる。イカロスやアイオロスと呼ばれるタンパク質の分解を引き起こし、多発性骨髄腫などの血液がんに対する治療薬として世界中で使用されている。

4) E3ユビキチンリガーゼ
タンパク質のユビキチン化を引き起こす酵素。細胞内でユビキチン化されたタンパク質はプロテアソームによって分解される。

5) 5位水酸化サリドマイド
サリドマイドが投与されたヒトやウサギを含む様々な動物種において、代謝酵素CYP450sによって生体内で生成されるサリドマイド代謝物。

詳細(プレスリリース本文)※2021年1月21日訂正版へ差替えPDF
※図1の一部が表示されない不具合を訂正いたしました。

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 田村 宏治(たむら こうじ)
TEL: 022-795-3489
E-mail:tam*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院 生命科学研究科広報室
TEL:022-217-6193
E-mail:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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