2021年 | プレスリリース・研究成果
細胞の品質管理機構の新たな仕組みを解明 〜トリプトファンの連続配列による翻訳停滞メカニズム〜
【本学研究者情報】
〇本学代表者所属・職・氏名:薬学研究科・教授・稲田 利文
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- トリプトファンの連続配列がリボソーム(注1)の停滞を引き起こすメカニズムを明らかにしました。
- トリプトファンの連続配列がPTC(注2)近傍やリボソームトンネルの狭窄部位と相互作用することで翻訳停滞を起こしていることを明らかにしました。
- 特定の数のトリプトファンがレアコドン(注3)配列の前に存在するとCATテイル(注4)の付加に対して阻害的に働くことを明らかにしました。
- 本研究成果は、新生鎖の品質管理機構への重要性を示唆する新たな発見であり、品質管理機構関連のこれまで不明であった様々な疾患の原因解明につながることが期待されます。
【概要】
ゲノムDNAから転写されたmRNA(注5)は、リボソームによって翻訳されることでタンパク質へと変換されます。正確な遺伝子発現は生命情報の根幹であり、その破綻は様々な疾患の原因となります。細胞はこのような異常なタンパク質を除去する品質管理機構を有しており、遺伝子発現の正確性を保証しています。そのうちの一つであるRQC(注6)は翻訳停滞を解消する機構でありRQCはレアコドン配列や正電荷アミノ酸配列で引き起こされることが報告されています。しかし、このどちらにも当てはまらないトリプトファンの連続配列が同様にRQCを引き起こす機構の詳細はこれまで不明でした。
東北大学大学院薬学研究科の稲田利文教授の研究グループは、トリプトファンの連続配列による停滞メカニズムやCATテイル付加の阻害作用を解明しました。
本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)、基盤研究(C)、(公財)武田科学振興財団、(公財)上原記念生命科学財団の研究助成により実施しました。この研究成果は、2021年1月29日(金曜日)に英国科学誌『Nucleic Acids Research』にオンライン掲載されました。
図1. トリプトファンの連続配列による翻訳停滞とCATテイル付加反応阻害の模式図。
【用語解説】
注1 リボソーム: DNAから転写されたmRNAの配列をもとにアミノ酸を繋ぎ合わせてペプチド鎖を形成する巨大な複合タンパク質で主に大サブユニットと小サブユニットの二つからなる。
注2 PTC(Peptidyl transferase center) :大サブユニット内に位置する触媒活性を持つ領域であり、アミノ酸同士の結合に関与する。
注3 レアコドン: アミノ酸を指定する三つの塩基からなるコドンにはそれぞれ対応したtRNA(アミノ酸を運ぶRNA)が存在し、その中で使われる頻度の低いコドンを指す。また、レアコドンに対応するtRNAの量も他と比べ相対的に少ない。
注4 CATテイル: 翻訳停滞後、品質管理機構因子によって大サブユニットと新生鎖からなる複合体(RNCs)と小サブユニットが解離し、Rqc2によって新生鎖に付加されるアラニンとスレオニンのランダム配列。
注5 mRNA: DNAを鋳型にRNAポリメラーゼによって転写される核酸。タンパク質の発現に重要。
注6 RQC(Ribosome-associated quality control): リボソーム品質管理機構の一つ。翻訳伸長が一時的に阻害され、停滞したリボソームが障害物となって後続するリボソームが衝突した際に様々な因子がリボソームを解離させ、合成途中のペプチド鎖を分解させる経路のこと。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
稲田利文 教授
電話:022-795-6874
メールアドレス:toshifumi.inada.a3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 総務係
電話:022-795-6801