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理論計算による高効率な磁気構造予測手法の開発に成功

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:金属材料研究所計算材料学センター・准教授・鈴木 通人
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • さまざまな磁性体が示す複雑な磁気構造を、高精度で効率よく予測できる計算手法の開発に成功し、既存の磁気構造データベースを用いた詳細なベンチマークを行った。
  • クラスター多極子と呼ばれる、新しい基本構造による磁気構造の生成手法を導入し、現実的なレベルまで計算コストを削減した。磁気構造データベースに基づく網羅的研究としても世界で初めての試みとなる。
  • 本研究成果は、機能性反強磁性体の探索や設計に有用である。反強磁性体を用いた磁気デバイス素子等の形で社会還元されることが期待される。

【概要】

東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程学生のMarie-Therese Huebsch、同大学大学院工学系研究科物理工学専攻助教の野本 拓也(科学技術振興機構さきがけ研究者)、教授の有田亮太郎(理化学研究所チームリーダー)、東北大学金属材料研究所計算材料学センター准教授・大阪大学大学院基礎工学研究科スピントロニクス学術連携研究教育センター招へい准教授の鈴木通人(科学技術振興機構さきがけ研究者)らの研究グループは、さまざまな磁性体[注1]が示す複雑な磁気構造[注1]を、高精度で効率よく理論予測できる計算手法の開発に成功しました。これは、スピン密度汎関数理論[注2]と呼ばれる計算手法と、同研究グループが提案したクラスター多極子理論[注3]に基づいた成果で、既存の手法に比べて約30分の1程度の計算コストで磁気構造を予測することができます。本研究成果は、理論主導に基づく新規磁性体探索に有効で、次世代型磁気デバイス素子の開発に向けた磁性材料設計への貢献が期待されます。本成果は「Physical Review X」に2月16日付で掲載されました。

図 1 クラスター多極子を用いた磁気構造表現の概念図。仮想クラスターと呼ばれる特殊な原子配列(A)と連続空間における多極子の概念(B)を組み合わせることで(C)、元の結晶における磁気構造(D)を表現します。結晶のもつ対称性によって異なったクラスター多極子を考えることで、現実の物質で実現する磁気構造をうまく再現することができます。

【用語解説】

[注1] 磁性体・磁気構造・強磁性体・反強磁性体
結晶中の原子は電子の自転運動に起因した微小な磁石(スピン)をもつ場合があります。各原子のスピンが一様な方向に揃い、全体として磁石のように振る舞うものは強磁性体、それぞれが互いに打ち消しあっているものは反強磁性体と呼ばれます。物質中ではさまざまなスピン配置のパターンが実現しますが、これらの構造は総称して磁気構造と呼ばれます。

[注2] スピン密度汎関数理論・第一原理計算
量子力学のシュレディンガー方程式にしたがって、 物質中の電子の運動をコンピュータで計算する方法を第一原理計算と呼びます。密度汎関数理論は、第一原理計算の中でも電子密度をベースに物質の性質を計算する手法で、固体物理や量子化学の分野で頻繁に用いられています。この手法を磁性体に対して拡張した手法はスピン密度汎関数理論と呼ばれています。

[注3] クラスター多極子理論
電荷や磁荷の空間分布は、双極子や四極子などの多極子と呼ばれる概念で特徴付けられることが知られています。クラスター多極子理論は物質の磁気構造を多極子によって表現する手法で、各物質のもつ対称性の情報を陽に含んだ形で定式化されています。

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問い合わせ先

東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
E-mail: pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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