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生きた細胞膜での膜透過性ペプチドの取り込みをナノスケールで可視化 細胞膜で起こる様々な物質のやり取りや反応を直接観察可能に

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:学際科学フロンティア研究所・助教・井田 大貴
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 細胞にダメージを与えないで微細構造を観察可能な走査型イオンコンダクタンス顕微鏡*1と、焦点面での蛍光像を取得できるスピニングディスク式共焦点レーザー顕微鏡*2の融合装置を開発。
  • ドラッグデリバリーなどに用いられる膜透過性ペプチド*3が細胞に取り込まれる時の形状変化(陥入構造)の直接観察に成功。
  • 蛍光標識が、膜透過性ペプチドによる細胞表面の形状変化に大きな影響を及ぼすことを発見。
  • 本成果は、膜透過性ペプチドの取り込み以外にも、エンドサイトーシス系による物質のやり取りや応答といった様々な反応の観察に有用。

【概要】

細胞表面を覆う膜(細胞膜)は、光では観察できない微小なスケールで、細胞と外環境の間の物質のやり取りを制御しています。この細胞膜の制御を突破し、ドラッグデリバリーなど特定の薬剤や物質を細胞内に輸送するためのツールの一つとして、細胞膜を透過できるペプチド(膜透過性ペプチド)が利用されています。しかし、ナノスケールで起きる細胞膜での物質の透過に関わる形状変化を観察することは難しく、膜透過性ペプチドの重要性に反して、細胞内に流入する過程の詳細や細胞膜の形態への影響は完全には理解されていません。

東北大学 学際科学フロンティア研究所 井田大貴助教、東北大学 材料科学高等研究所 熊谷明哉准教授、金沢大学 ナノ生命科学研究所 高橋康史教授、京都大学 化学研究所 二木史朗教授らの研究グループは、細胞にダメージを与えないで細胞表面のナノ形状を計測可能な走査型イオンコンダクタンス顕微鏡と、焦点面での標識分子動態を可視化できるスピニングディスク式の共焦点レーザー走査顕微鏡を融合した装置を開発、膜透過性ペプチドの流入領域で生じる形状変化を直接観察し、その詳細を明らかにしました。本研究成果は、分析化学の国際的な学術誌『Analytical Chemistry』にて3月25日(米国東部時間)に掲載されました。

図 本研究の模式図(左)とSICMによる形状測定結果(右)。
コブ状構造の脇に陥入構造があり、ペプチド流入との相関が示された。

【用語解説】

*1 走査型イオンコンダクタンス顕微鏡
細胞への標識・接触を伴わない走査型プローブ顕微鏡技術。一般的な顕微鏡(光学顕微鏡)は光の性質上、200 nm以下の分解能で物体を観察できない。しかし、走査型イオンコンダクタンス顕微鏡はナノスケールに先鋭化したピペットで試料表面を走査することで、数十nmオーダーの空間分解能で形状測定できる。

*2 スピニングディスク式共焦点レーザー顕微鏡
共焦点顕微鏡は、焦点面の蛍光を限定的に取得可能な蛍光顕微鏡の一種。本研究では、スピニングディスクによってレーザーを走査するタイプの共焦点顕微鏡を使用した。

*3 膜透過性ペプチド
細胞と外環境を隔てる細胞膜を透過することができるペプチドであり、創薬などに応用されている。膜透過性ペプチドの流入は、大別すると高濃度時に起こる細胞膜を直接透過する経路(直接膜透過)と、低濃度時に起きる細胞の取り込み機構(マクロピノサイトーシス)を利用した経路の二つに分かれており、本研究ではその両者とも形状変化を可視化した。陥入構造はこのうち、直接膜透過による取込で観察された。なお、本研究では、アルギニンというアミノ酸が連なったペプチドを使用した。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関して)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
助教 井田 大貴 (いだ ひろき)
電話:022-217-6160
E-mail:ida*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関して)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
URA 鈴木 一行 (すずき かずゆき)
電話:022-795-4353
E-mail:suzukik*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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