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X線による磁気検出の例外的ケースを理論予測 ~30年間の常識を覆す基礎研究の成果~

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:国際放射光イノベーション・スマート研究センター・教授・中村 哲也
研究室ウェブサイト
金属材料研究所・准教授・木俣 基
研究室ウェブサイト

【概要】

公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)と国立大学法人東北大学は、X線磁気円二色性(X-ray Magnetic Circular Dichroism: XMCD)※1と呼ばれる磁気光学効果が、強磁性やフェリ磁性※2など磁化を有する磁性体のみならず、磁化ゼロの状態にあっても特定の磁気秩序を有する反強磁性体※3には観測され得ることを理論的に明らかにしました。XMCDは1987年にドイツのGisela Schütz(ギゼラ シュッツ)博士が放射光を用いて初めて実験的に観測して以来、実験と理論の両面から多くの研究が行われました。さらに、放射光施設の光源性能が飛躍的に向上したことでXMCDによる磁化検出感度や精度が大幅に向上し、現在ではスピントロニクス材料や永久磁石などの磁性研究に不可欠な先端計測技術へと進化しています。これまで研究者の間では、XMCDについて、「磁化した磁性体と円偏光X線の相互作用により観測される磁気光学効果」との説明がされていましたが、今回の理論研究によって磁化を持たない磁性体でもXMCDが観測され得ることが分かり、「例外を除けば..」と追記することが必要になりました。Schütz 博士がXMCDの初観測に成功してから30年以上の歳月を経て、これまでの常識が覆されたといえます。この「例外」は、正三角形の頂点に磁性原子を配置した特殊な反強磁性秩序を仮定し、かつ、その磁気モーメントが扁平に拡がる電子雲のスピンから生じるというモデルを立てて見出しました。このように非常に特殊な状況を仮定する必要がありますが、当研究グループでは、既存物質のなかにも候補となる物質があると考えており、近い将来に実験的に確認されることを期待しています。

本成果は、JASRI 雀部 矩正 博士研究員、東北大学金属材料研究所 木俣 基 准教授、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS) 中村 哲也 教授による共同研究の成果として、米国物理学協会の学術雑誌「Physical Review Letters」オンライン版に4月16日(米国東部時間)掲載されました。

図1 代表的な磁性体における原子磁石の並び方の例。上段は磁場を印加しない場合の (A)強磁性体、(B)フェリ磁性体、(C)反強磁性体、(D)常磁性体の例。たとえば、常温で純鉄は強磁性体、フェライト磁石はフェリ磁性体、酸化マンガンは反強磁性体、アルミニウムは常磁性体である。下段は磁場を印加した場合の原子磁石の並び方。磁性体の種類によって、磁化が異なる様子を示している。

【用語解説】

※1.X線磁気円二色性(X-ray Magnetic Circular Dichroism: XMCD)
X線磁気円二色性とは、磁性体を透過する円偏光X線の吸収係数が左回り円偏光と右回り円偏光X線で差を生じる現象です。従来はXMCDの発現には物質全体で有限の磁化を持つ状態が必要と考えられてきました。この原理に基づき、様々な磁性体の電子状態を明らかにする強力な手法として広く活用されています。

※2. フェリ磁性
磁気モーメントが互いに反平行に配列しているが、隣り合うモーメントの大きさが異なるため全体としては打ち消しあいが完全ではなく正味の磁化を持つ磁気秩序状態。典型例としては異なる元素に由来する磁気モーメントが反平行に配列した物質があげられます。

※3. 反強磁性体
各原子サイトのスピンの向きが互いに打ち消しあい、正味の磁化を持たない磁気的状態。図1Dに示した隣同士のサイトで磁化が打ち消しあう配置の他にも、本研究で対象とした、三角形の頂点に位置するスピンが互いに120度の角度をなして配列した場合も反強磁性の一種に分類されます。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学 金属材料研究所
准教授 木俣 基(キマタ モトイ)
E-mail:motoi.kimata*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 
教授 中村 哲也(ナカムラ テツヤ)
E-mail:tetsuya.nakamura.b5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 
FAX:022-215-2482
E-mail:pro-adm*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 
事務(担当:山本)
TEL:022-217-5204 
FAX:022-217-5211
E-mail:sris*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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