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量子ビットに適した固体中のスピン中心は?~ブレイクスルーへ向けた物性・材料の探索指針~

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:電気通信研究所・助教 ・金井 駿
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 量子ビット注1)応用に適した固体中のスピン中心の物性と、今後ブレイクスルーが期待される物性や材料を系統的に示した
  • 「ニューノーマル」の時代及び「Society5.0」での活躍が期待される、従来技術では困難な問題の解決が期待される量子コンピューター注1)や、絶対に盗聴されない量子通信等の研究・開発を加速

【概要】

量子コンピューターが商用レベルで実用化されるなど、量子現象がますます身近なものになりつつあります。固体中のスピン中心は、量子コンピューターを構成する「量子ビット」と呼ばれる量子情報担体を構成する物理系の中でも、室温で量子情報を保持可能であり、大きな注目が集まっています。近年、固体中のスピン中心を用いることにより、極めて高感度の電磁場検出や、量子テレポーテーション、原理上盗聴が不可能な量子通信が実現されている他、多様な量子現象を実験実証するプラットフォームとして利用されてきました。

東北大学電気通信研究所の金井駿助教は、シカゴ大学及びアルゴンヌ研究所(米国)のDavid D. Awschalom教授を中心とする研究グループとの共同研究により、固体中のスピン中心の量子ビット応用に必要な物性をまとめ、今後材料工学等によりもたらされ得るブレイクスルーを系統的に示しました。本成果では、量子機能性とその実現に必要となる物性を改めて精査すると共に、量子ビット中で両物性が果たす役割やその機能を更に向上・発展させることを主な目的の一つとして、「どの固体中のスピン中心材料を次世代の量子ビット向けに研究すべきか」を考える基準を示しました。

本研究成果は、量子コンピューターや、センシング、及び量子通信などの次世代の量子応用研究及び、新奇量子物性の探索に関する基礎研究を大きく加速するものです。 本成果は2021年4月26日付で英国の科学誌「Nature Reviews Materials」で公開され、関連する図面が表紙に採用されました。

図1) スピン中心の量子ビット応用上重要な特性の一つである位相緩和時間の材料依存性。丸は実験報告値、棒グラフはクラスタ相関拡張法(CCE)による理論報告値を示す。T2(青、赤)はHahnエコー測定により決まる位相緩和時間(「量子情報の保持時間」)、T2*(オレンジ)はRabi振動により決まる位相緩和時間(「量子情報の操作可能時間」)を示す。

【用語解説】

注1)量子ビット、量子コンピューター
 ある物質のサイズを小さくしていくと、量子的性質が発現することがあります。例えば「スピン」と呼ばれる磁性の源の持つ量子的性質はナノメートル(10のマイナス9乗メートル)以下のスケールで顕著に見られ、微細加工技術の進展とともに様々な関連現象が発見されてきました。この量子的性質には古典物性とは異なる様々な特徴があります。その一つに「2つの量子状態を同時に取ることができる」という性質があります。
 電子には、磁性の源となるスピンという性質があります。上向きと下向きの2つの状態を取ることができ、これがビットの「0」と「1」の状態に対応します。ハードディスクなどの磁性メモリでは、たくさんの電子スピンが揃っており、そのスピン方向が古典ビットと対応します。これらのデバイスでは、電子スピンが最低でも数万というオーダーで集まっており、量子的性質は見られません。一方で、スピン中心のように単一か、それに近い数のスピンでは、スピンは上向きと下向きの状態両方を「同時に取る」ことができます。
 量子ビットのこの2つのビット状態を「同時に取る」ことが可能な性質を利用し、2状態を重ね合わせた状態を同時に計算するのが量子計算や量子コンピューターです。本文中で言及されている通り、量子コンピューターは古典コンピューターと比較して桁違いに高速に問題を解決することができる場合があることが示されています。例えば古典コンピューターが苦手とし、現代の暗号通信の基盤となっている素因数分解を高速に計算するアルゴリズムが開発されています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

研究に関すること
東北大学電気通信研究所
助教 金井 駿
電話 022-217-5555
E-mail skanai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

報道に関すること
東北大学電気通信研究所 総務係
電話 022-217-5420
E-mail somu*riec.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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