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東日本大震災後の避難所アセスメントデータから見えた避難者の健康状況と物資・インフラの関連性 -浄水・トイレ環境復旧の重要性と難しさ-

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:病院総合地域医療教育支援部・教授・石井 正
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 東日本大震災注1の発生1か月以内における石巻医療圏の全避難所の物資・インフラの充足状況と避難者の健康状況を評価したアセスメントデータを集計し、充足状況の推移と健康への影響について検証した。
  • 浄水とトイレ環境の充足状況は発災から1か月近く経過しても約半数の避難所で人道的および衛生学的な観点から許容しうるレベル注2まで回復しておらず、これらの充足が回復した避難所では、感染性疾患の有症状率も有意に低下していた。
  • 大災害の発生直後からの、避難所の設立状況や概要、物資・インフラの充足に関する網羅的なアセスメント、避難者の健康状況の把握などを画一的に継続して行う有用性が示唆された。

【概要】

災害後の避難所における物資・インフラの充足は重要な課題です。東北大学病院の総合地域医療教育支援部の石井正教授、赤石哲也助教らのグループは、2011年の東日本大震災の発災直後から石巻医療圏内に設置された中規模~大規模避難所の定期的アセスメントによって得た記録を解析し、物資・インフラの充足状況が避難者の健康状況におよぼす影響を検証しました。その結果、浄水やトイレ環境へのダメージは特に復旧に長い時間を要し、発災から1か月近く経過しても約半数の避難所で衛生学的な観点から許容されうるレベルにまで回復していませんでした。浄水やトイレ環境が観察期間中に改善した避難所では、避難者の感染性疾患の有症状率が有意に低下していました。本研究は、調査員の目視による各避難所の効率的なアセスメントの有用性と、浄水やトイレ環境などの復旧が遅れている避難所への早期の衛生学的介入の重要性を示唆する報告です。

本研究成果は、2021年5月14日、米国科学雑誌 Heliyon(オンライン版) に掲載されました。

図1.東日本大震災後の石巻圏合同救護チームの活動概要と評価事項
本研究では、石巻圏合同救護チームが発災3週目と4週目に継続して訪問した避難所のうち、50名以上の避難者からなる中規模以上の避難所で、かつ欠損データがなかった28か所の避難所のデータが検証されました。物資やインフラの評価は、訪問した調査員が実際に目視においてその人道的かつ衛生学的なレベルを評価しました。

【用語解説】

注1.東日本大震災:2011年3月11日に牡鹿半島沖を震源として発生した、マグニチュード9.0の巨大地震で、最大遡上高30メートル以上の大津波が太平洋沿岸に襲来しました。戦後の歴史では数少ない先進国を直撃した未曾有の大災害で、特に石巻圏や気仙沼圏などの三陸沿岸部は震源地から近いこともあり激甚な被害を受け、発災から1週間は被害の全容をつかめないほど通信網やインフラが壊滅的な状態になりました。石巻市における死者・行方不明者は関連死も含めて約4,000人にのぼり、石巻市民の約40人に1人が震災で命を落としたことになります。多くの被災者が避難所や仮説住宅での長期避難生活を余儀なくされ、宮城県内の最後の仮説住宅が解体されたのは震災から10年後の2021年3月でした。

注2.石巻圏合同救護チーム:発災10日目に発足したこの合同救護チームには、石巻赤十字病院のスタッフだけでなく、北海道から沖縄まで全国の病院から集まった多くの医療関係者が参加して数か月にわたり長期的にその運営を支えました。発災から2週目には全国の多くの医療機関から医師・コメディカルが被災地に応援に駆けつけましたが、県の指示で動いているチームもあれば各病院や各機構の指示で動いているチーム、個人で駆けつけたスタッフなど様々であり、また支援を継続できる日数(各チーム平均4~5日)にもばらつきがあったため、すべての避難所を満遍なくバランスよく継続的に支援することが困難な状況が予想されました。そこでそれらの多くの支援グループの配置や業務を一元的に統制するシステムとして、県知事から委嘱された災害医療コーディネーターを統括役として配置し、自治体や地元医師会の合意のもとで、すべての支援チームが協働して長期的に被災者への支援を継続するために発災10日目に編成されたのが石巻圏合同救護チームでした。参加チームは発災3週目に最大59チームにのぼり、同年9月31日に解散となるまで半年以上にわたり石巻圏における医療支援を継続しました

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学病院 総合地域医療教育支援部
教授 石井 正
電話番号:022-717-7587
Eメール:t-ishi23*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
電話番号:022-717-8032
FAX番号:022-717-8931
Eメール:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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