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トランス脂肪酸による毒性シグナルの新たな制御機構を解明 -動脈硬化症などの関連疾患の発症予防・治療戦略の開発に繋がる発見-

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:大学院薬学研究科 衛生化学分野・教授・松沢 厚
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • トランス脂肪酸が、DNA損傷(注1)の様式によって異なる毒性シグナルを介して、自発的な細胞死(アポトーシス)(注2)を促進する新たな仕組みを解明
  • トランス脂肪酸は、DNA鎖間架橋(注3) 形成時に、NADPHオキシダーゼ(Nox)(注4)を介した活性酸素(注5)の産生増大により、ストレス応答性MAPキナーゼ(注6)経路の活性化を増強することで、細胞死の誘導を促進する
  • 本研究成果は、動脈硬化症や神経変性疾患をはじめとしたトランス脂肪酸関連疾患の発症メカニズムの解明や、新規予防・治療戦略の開発に繋がる

【概要】

加工食品などを通して摂取されるトランス脂肪酸は、循環器系疾患、アレルギー性疾患、神経変性疾患(認知症など)をはじめとした諸疾患のリスク因子となるとされています。

東北大学大学院薬学研究科の平田祐介助教、山田侑杜大学院生、松沢厚教授らの研究グループは、トランス脂肪酸には、DNA鎖間架橋と呼ばれる様式のDNA損傷時に自発的な細胞死(アポトーシス)を促進する作用があることを見出し、その仕組みを解明しました。この仕組みは、同グループが以前明らかにしていた、DNA二本鎖切断(注7)時の細胞死促進機構と全く異なっており、DNA損傷の様式によって、トランス脂肪酸がそれぞれ異なるメカニズムで細胞死を促進するという毒性シグナルの新たな仕組みが初めて明らかになりました。DNA損傷時に引き起こされる細胞死は、動脈硬化症や神経変性疾患をはじめとした様々な疾患の増悪に繋がることから、本研究で見出したトランス脂肪酸による毒性シグナル機構は、関連疾患の発症機序の解明や、新規予防・治療戦略の開発に繋がる基礎的知見として、重要な位置付けとなる研究成果です(図)。

本研究の成果は、5月14日午前10時(英国標準時間)に英国科学雑誌Scientific Reportsに掲載されました。

図: トランス脂肪酸によるDNA損傷時(鎖間架橋形成時)の細胞死促進作用機構
シスプラチンなどによるDNA鎖間架橋形成時に、トランス脂肪酸存在下では、NADPHオキシダーゼによるRIP1依存的な活性酸素産生が増大する。それに伴い、ストレス応答性MAPキナーゼ経路であるASK1-p38/JNK経路の活性化が増強することで、アポトーシス(細胞死)の誘導が促進する。このようなトランス脂肪酸によるDNA損傷時の細胞死促進作用が、循環器系疾患や神経変性疾患などの関連疾患発症に寄与していると考えられる。

【用語解説】

注1)DNA損傷
紫外線や活性酸素などの細胞内外からのストレスによって、DNAが修飾や切断を受けて障害され、正常な状態を維持できなくなること。

注2)アポトーシス
細胞は、ストレスなどの様々な要因によって、能動的あるいは受動的に死に至る。アポトーシスはその中でも、プログラムされた分子機構によって自発的に細胞死を誘導する現象であり、個体発生期の余計な細胞の除去や、細胞がん化の抑制など、様々な重要な役割を担っていることが知られている。

注3)DNA鎖間架橋
DNAの塩基間に共有結合を形成する修飾。同一DNAの鎖上で、あるいは向かい合う2本のDNA鎖間の塩基間で形成される2種類のタイプが存在する。DNAの複製や転写といった、細胞の増殖に必須となるプロセスを阻害する。

注4)NADPHオキシダーゼ(Nox)
細胞内において、ミトコンドリアと並んで活性酸素の主要な産生の場となる酵素。NADPH + 2O2 + 2e-→NADP+ + 2O2- + H+の反応を触媒することで、NADPHを利用してスーパーオキシド(O2-:活性酸素の1つ)を産生する。

注5)活性酸素
ミトコンドリア呼吸の副産物として、あるいはNADPHオキシダーゼなどの酵素的な働きによって、細胞内に生じる反応性の高い酸素分子種の総称。細胞内外からの様々なストレスに曝されることで、さらに産生が亢進することが知られている。DNAやタンパク質などを酸化し、機能障害を引き起こすことで、様々な疾患や老化の原因となる。

注6)MAPキナーゼ(Mitogen-activated protein kinase)
基質にアデノシン三リン酸(ATP)の末端リン酸基を導入する反応(リン酸化)を触媒する酵素で、細胞内の情報(シグナル)を伝達する重要な働きを持つ。Mitogen-activated protein kinaseは「細胞分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ」の略で、細胞分裂促進因子で処理した細胞が増殖する際に活性化するキナーゼとしてERK (Extracellular signal-regulated kinase)が同定された経緯から、このような名前が付けられた。狭義にはERK1/2のみを指すが、広義には、様々なストレスに応答して活性化するJNK(c-Jun N-terminal kinase)やp38も含まれ、これらはストレス応答性MAPキナーゼと呼ばれる。細胞内情報(シグナル)伝達において中心的役割を果たし、シグナル伝達を実行するキナーゼである。

注7)DNA二本鎖切断
DNAを構成する2本の鎖の両方が、同時に同じ箇所で切断される現象のこと。ゲノムの不安定化、細胞のがん化、細胞死などの様々なイベントを引き起こす、重篤なDNA損傷の1つである。

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問い合わせ先

東北大学大学院薬学研究科
担当: 教授 松沢厚
電話: 022-795-6827
E-mail: atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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