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低酸素によって脳障害が起こる新たなメカニズムの解明 脳卒中や心停止に対する治療法開発に期待

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:医学系研究科・教授・赤池 孝章
研究室ウェブサイト
加齢医学研究所・教授・本橋 ほづみ
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 低酸素になると脳では硫化水素や過硫黄化物が蓄積しやすいことがわかりました。
  • 繰り返して硫化水素に曝露すると、硫化水素や過硫黄化物への抵抗性が生まれ、それにより低酸素に対しても強くなることがわかりました。
  • 脳虚血や心停止などによる脳の低酸素障害の新たな治療法開発が期待されます。

【概要】

哺乳類の脳は低酸素になると障害を受けやすいことがわかっていますが、その分子メカニズムは不明でした。東北大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の本橋ほづみ教授と同大学院医学系研究科環境医学分野の赤池孝章教授の研究グループは、ハーバード大学医学部・マサチューセッツ総合病院麻酔科の市瀬史教授らの研究グループとの共同研究により、脳において硫化水素・過硫黄化物の代謝を促進すると、低酸素における脳の障害が緩和されることを発見しました。低酸素になると細胞内のミトコンドリアの硫黄呼吸が亢進しますが、それに伴って硫化水素・過硫黄化物のレベルが増加します。しかし、脳ではそれらの代謝酵素であるSQOR*1が少ないため、SQORが担う硫黄を利用したエネルギー産生がうまく進まず、硫化水素・過硫黄化物の毒性が出やすいことがわかりました。本研究成果は、脳虚血や心停止などの際、脳を低酸素による障害から守る新たな治療法開発につながるものと期待されます。

本研究成果は、5月25日に英国の学術誌Nature Communications誌に掲載されました。

図1 SQORによる硫化水素の代謝と低酸素状態における硫化水素の増加
細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアには、電子伝達系が存在しており、エネルギー産生を行っている。酸素が十分に利用できる環境(左)では、電子伝達系から酸素に電子が渡されて、酸素は水になり、それに伴いエネルギーが産生される。この過程には硫黄代謝が共役しており、発生する硫化水素などの還元硫黄はSQORにより代謝され、さらに、硫黄酸化物として排出される。一方、低酸素状態(右)では、酸素が十分に電子を受け取ることができず、超硫黄分子からの還元硫黄産生が増加する。SQORの機能が不十分であると、還元硫黄が増加して電子伝達系を抑制してしまうことになる。

【用語解説】

*1 SQOR:Sulfide (硫化水素)-Quinone (キノン) oxidoreductase (オキシドレダクターゼ) の略。硫化水素や過硫化水素を酸化して、ミトコンドリアの電子伝達系に存在するユビキノンを還元する酵素。生理的な機能としては、ミトコンドリアにおける硫黄代謝を担う酵素の一つで、ミトコンドリアのエネルギー産生を支える役割がある。高濃度の硫化水素に対しては解毒酵素として働く。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学加齢医学研究所
担当 教授 本橋ほづみ
電話 022-717-8550
E-mail hozumim*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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