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筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新しい病態関連候補因子を発見 -患者由来iPS細胞を用いた運動ニューロン選択的変性のメカニズム解明へ期待-

【本学研究者情報】

〇本学代表者所属・職・氏名:大学院医学系研究科神経内科学分野・教授・青木 正志
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 家族性筋萎縮性側索硬化症患者から樹立したヒトiPS細胞注1由来の運動ニューロンにおいて、PHOX2B注2遺伝子の発現が減少していることを見出した。
  • モデル動物(ゼブラフィッシュ)においてPHOX2Bの発現を抑制すると、神経突起長が短縮し、運動機能が低下した。
  • PHOX2B遺伝子およびその関連分子が筋萎縮性側索硬化症の新しい治療標的となる可能性が示された。

【概要】

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、全身の運動や呼吸に必要な筋肉がやせて弱っていく成人発症の疾患です。呼吸補助をしなければ3~5年で死にいたる重篤な疾患であるにもかかわらず、根本的な治療法はなく、病態解明が求められています。東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野の光澤志緒(みつざわ しお)大学院非常勤講師、鈴木直輝(すずき なおき)助教、割田仁(わりた ひとし)院内講師、青木正志(あおき まさし)教授および、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之(おかの ひでゆき)教授らの研究グループは、ほとんどのALS患者の脳・脊髄で蓄積するTDP-43タンパク質を産生するTARDBP遺伝子に変異を持つ家族性ALS患者から樹立したiPS細胞由来のALS運動ニューロンにおいて、発現が減少している新しい遺伝子PHOX2Bを発見しました。PHOX2Bの発現を人為的に抑制すると、健常者iPS細胞由来の運動ニューロンの神経突起の長さが減少し、ゼブラフィッシュでは脊髄運動ニューロン軸索の短縮と運動機能の低下も起きました。ALSにおいて運動ニューロンが選択的に変性してしまうメカニズムの一端がPHOX2Bの発現減少で説明できると考えられます。

本研究成果は2021年5月27日午前11時(現地時間、日本時間5月28日午前1時)で、オープンアクセス学術誌「Stem Cell Reports」に掲載されました。

図1. iPS細胞由来運動ニューロンのPHOX2B発現抑制実験
2種類の健常者由来運動ニューロン(WT1、WT2)のPHOX2Bの発現抑制を行うと、コントロールと比較して、神経突起長が短縮する。白い矢印は細胞体の塊であるスフェアから最も遠位の神経突起端。

【用語解説】

注1.iPS細胞(induced pluripotent stem cell):人工多能性幹細胞ともいわれる。体細胞へ初期化因子を強制発現させることで、いくつもの目的細胞へ分化誘導できる多能性を獲得した細胞のこと。

注2.PHOX2B(paired mesoderm homeobox protein 2B):神経系細胞で主に発現する転写因子タンパク質で、発生段階で神経堤の形成に必要とされており、神経前駆細胞の神経細胞への分化に関与している。自律神経細胞などに発現が多いが、運動ニューロンでは、胎生期マウスの頭蓋内および上位頸髄の下位運動ニューロンに蛋白発現があり、今回、成体ラットの腰髄運動ニューロンにも発現していることを確認した。これまでALSとの関連は見出されていない。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科神経内科
教授 青木正志(あおきまさし)
助教 鈴木直輝(すずきなおき)
TEL:022-717-7189
FAX:022-717-7192
E-mail:aokim*med.tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
E-mail:naoki*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
FAX:022-717-8187
E-mail:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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