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タンパク質の液-液相分離現象をその場で定量評価 ~神経変性疾患の発症機構の解明の応用に期待~

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 生物構造化学分野 教授 中林孝和
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 神経変性疾患(注1)の発症との関連が指摘される液-液相分離現象の定量解析法を開発した。
  • 液-液相分離によって生じた液滴内のタンパク質の構造、濃度、構成成分を単一液滴の状態でその場で計測することに成功した。
  • 液滴内のタンパク質濃度は周囲の環境によって変化し、液-液相分離において液滴周囲の環境が重要であることがわかった。

【概要】

筋萎縮性側索硬化症やアルツハイマー病などの神経変性疾患では、原因タンパク質の線維化が発症原因として提案されています。この線維化については、液-液相分離と呼ばれる現象によって生じたタンパク質の濃厚液滴から形成されることが提案され、液滴をターゲットとした創薬研究も進められています。

東北大学大学院薬学研究科の村上一輝氏(大学院修士課程在学中)、梶本真司准教授、中林孝和教授ら は、神経変性疾患の発症との関連が指摘されているタンパク質の液-液相分離現象を評価する技術を開発しました。

本研究では、ラマン顕微鏡(注2)と呼ばれる装置を 用いてタンパク質の単一液滴を定量解析できる手法を提案しました。この方法を用いて神経変性疾患であるマチャド・ジョセフ病関連タンパク質の液滴の観測を行い、液滴内のタンパク質の構造、濃度、そして構成成分を単一液滴の状態でその場評価できることを示しました。ラマン顕微鏡がタンパク質液滴を調べる一般的な手法になりえると考えられます。

本研究成果は、英国王立化学会誌"Chemical Science"に2021年6月7日に掲載されました。

図 細胞内を模倣した緩衝溶液中におけるataxin-3のLLPS。
(A) ataxin-3のLLPSの明視野画像(左上)と蛍光画像(左下)。蛍光測定のためにataxin-3を蛍光色素Alexa Fluor 488®で標識している。
(B) 形成した液滴同士の融合。白矢印は液滴が融合した箇所を示す。

【用語解説】

(注1)神経変性疾患
脳や脊髄にある特定の神経細胞群が侵されることで、徐々にさまざまな退行性の変化を呈する疾患群。アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症などがこの疾患群に該当する。詳細な発症機序は明らかにされておらず、原因となる遺伝子やタンパク質の異常、タンパク質の分解機能欠損、活性酸素による細胞毒性などについて、様々な研究が行われている。

(注2)ラマン顕微鏡
ラマン分光により二次元および三次元構造や試料の化学組成を分析することを可能にした顕微鏡。試料を非破壊的に解析できること、試料の前処理が不要であることがラマン顕微鏡の主な利点である。

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問い合わせ先

東北大学大学院 薬学研究科 生物構造化学分野
中林 孝和
TEL : 020-795-6855
E-mail : takakazu.nakabayashi.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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