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金星大気中の自発的な波の励起を初めて再現 -地球シミュレータを用いた世界最高解像度のシミュレーション-

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科 地球物理学専攻 助教 黒田剛史
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を駆使して、世界最高解像度で金星大気大循環モデルのシミュレーションを実現しました。
  • 惑星規模の熱潮汐波(注1)から、小規模な大気重力波(注2)が自発的に励起されることを示し、そのメカニズムを解明しました。
  • 地球大気中で見られるジェット気流や低気圧からの大気重力波の自発的な励起(注3)は、金星大気中ではより大規模な惑星規模の熱潮汐波から生じることを示しました。
  • 今後、金星探査機「あかつき」によって、この新たな現象の観測が期待されます。また、波の働きを調べることで金星気象学が革新的に進むと期待されます。

【概要】

東北大学大学院理学研究科の黒田剛史助教らの研究チームは、金星の大気の流れをシミュレーションする大気大循環モデル「AFES-Venus」(注4)を、地球シミュレータ(注5)を用いて世界最高解像度で走らせ、小規模な波の自発的な励起を再現しました。

金星は厚い雲層によって全体を覆われており、大気内部の運動についてはほとんどわかっていません。また、大気大循環モデルを用いた金星大気運動の数値シミュレーションが試みられていますが、天気予報で行われているような高解像度のシミュレーションはこれまでありませんでした。今回の研究では、金星大気全体を20kmの水平刻み幅で計算することで、惑星規模の波からの小規模な波が自発的に励起されることを見出し、そのメカニズムを明らかにしました。今後は、本研究で再現された小規模な波やその励起過程の金星探査機「あかつき」(注6)による観測が期待されるとともに、励起された波の働きを詳しく調べることで、金星に吹く風の謎の解明が大きく進むと期待されます。

本研究の成果は、英国ネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)発刊の国際学術雑誌 Nature Communicationsに、2021年6月17日付(英国時間)のオンライン版で公開されました。

図1:鉛直速度(カラー)とジオポテンシャル高度の擾乱(等値線)のスナップショット:(a)高度70kmでの経度緯度断面図、(b)赤道での経度高度断面図。等値線で示す惑星規模の熱潮汐波による温位面の歪みから、カラーで示す細かい大気重力波が自発的に励起されている。暖色が上昇流、寒色が下降流を表す。(Nature Communications誌掲載論文の図を一部修正。CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)

【用語解説】

(注1) 熱潮汐波
太陽が加熱する領域が移動することによって大気中に励起される惑星規模の波。地球にも昼間熱せられ、夜冷却されることにより、一日および半日周期の潮汐波が励起される。金星にも熱潮汐波が存在することが観測からわかっている。地球の海では、潮の満ち引きに関わる潮汐が存在するが、これは月の引力によって生み出されるもので、別物である。

(注2) 大気重力波
浮力を復元力とする小規模 (波長数十〜数百 km) な波。山岳を波源とする地形性と、ジェット、前線、対流などを波源とする非地形性に分けられる。地球では、重力波を含む大気波動は、鉛直上方に運動量を輸送し、中層大気の大循環を駆動する働きを担っている。

(注3) 自発的放射
非地形性重力波の放射過程の一つ。総観規模 (数千 km) の流れ自体から、その時間発展とともに重力波が放射される。大気 (波の媒質) 自体が波源となるため、物理的理解が難しい。

(注4) 大気大循環モデル「AFES-Venus」
金星大気全体の数値シミュレーションを実施するための計算プログラム。地球大気シミュレーション用プログラム「AFES(Atmospheric GCM For the Earth Simulator)」を、金星大気用に改修したものである。大気大循環モデルでは、コンピュータプログラムにより、流体力学や熱力学の方程式を基に、大気の流れや温度・湿度の変化を計算する。大気大循環モデルを用いて数日から経年スケールの大気現象をシミュレートし、メカニズムや予測可能性が調査できる。AFESやAFES-Venusは地球シミュレータの性能を最大限活用できるように最適化されており、地球シミュレータ上で動かすことで、世界最高レベルの高解像度シミュレーションを実現できる。

(注5) 地球シミュレータ
海洋研究開発機構に設置されたスーパーコンピュータシステム。ベクトル型の大型計算機としては世界最高レベルの性能を誇る。2002年に初代地球シミュレータの運用が開始されて以降、システムが3度更新され、現在は4世代目の運用が開始された。

(注6) あかつき
日本の金星探査機。金星大気の謎を解明するために開発され、日本の惑星探査機として初めて地球以外の惑星を回る軌道に入ることに成功した。2010年5月21日に打ち上げられたが、2010年12月7日に金星の周回軌道投入に失敗し、金星に近い軌道で太陽を周回した。2015年12月7日に金星周回軌道への投入を再び試み、成功した。観測波長の異なる5台のカメラと電波掩蔽観測用の超高安定発振器を搭載し、金星の大気を立体的に観測している。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻
助教 黒田剛史(くろだ たけし)
E-mail:tkuroda*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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