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透明な酸化亜鉛導電膜をペット樹脂に大面積形成 IoT時代に向けウェアラブル型デバイスなどへの応用に期待

【発表のポイント】

  • 高結晶性単層カーボンナノチューブ注1からなる平面状電界電子放出源を用いて大面積で均一な酸化亜鉛注2膜の低温生成に成功しました。
  • 照射電子線エネルギーの最適化で酸化亜鉛結晶粒を配向配列させ、世界最高水準のキャリア密度、ホール易動度、導電性と透明性を確保できました。
  • 電子線励起された非平衡反応場での非加熱結合により低融点ペット樹脂注3にも成膜でき、ウェアラブル型デバイスなどの実現に貢献します。

【概要】

 電子機器のIoT (Internet of Things)化が急速に進んでいます。デバイスがインターネットで接続され高度化していくと、可搬性に富むウェアラブル型デバイスが必要になります。透光性導電回路にはインジウム・錫酸化物(Indium-Tin Oxide: ITO) が多用されていますが、インジウム資源枯渇の懸念から酸化亜鉛(ZnO)にシフトしていく傾向にあります。しかし良質のZnO薄膜が得られていない現状から、高い導電性と透明性に富む大面積ZnO薄膜の開発が求められていました。

 東北大学大学院環境科学研究科下位法弘准教授(現 東北工業大学工学部電気電子工学科教授)、東北大学田中俊一郎名誉教授(東北大学マイクロシステム融合研究開発センター)の共同研究グループは、湿式塗布したZnO粒子群に、高結晶性単層カーボンナノチューブ(hc-SWCNTs)製平面状電界電子放出源からのエネルギーが揃った電子線を照射することで、加熱することなく大面積で均一な電気的・光学的に世界最高水準のZnO薄膜を得ることに成功しました。

 本研究で得られた透明薄膜の非加熱形成技術は、省資源はもとより、ペット樹脂のような汎用高分子を用いた軽量安価な高性能ウェアラブルデバイスの実現に寄与することが期待されます。

 本成果は2021年2月にReview of Scientific Instruments誌に公開され、解説記事が2021年8月1日発行の、エレクトロニクス実装学会誌特集号に掲載されました。

平面状電界電子放出源となる結晶性単層カーボンナノチューブ
(a) 透過電子顕微鏡像
(b) 酸化亜鉛ナノ結晶膜を形成する高エネルギー平面状電界電子源
(c) 平面状電界電子源の電界特性

【用語解説】

注1.カーボンナノチューブ すすの中から発見されたカーボンナノチューブ(CNT)は産業界での応用が拡がっています。その一つに電界をかけて電子を取り出す電子源がありますが、下位らは結晶性単層カーボンナノチューブ電子源を平面状に並べて面内均一に電子放出する電子源素子の作成に成功し、非加熱大面積の電子線照射励起反応場を達成しました(N. Shimoiら, ACS Appl. Electronic Mater. 1 (2019) 163-171)。

注2.酸化亜鉛 ZnOの化学式でかける六方晶ウルツ鉱型結晶。資源的にも豊富で、バリスタなどの電子部品、ゴムの加硫や日焼け止めなど広く産業界で使われるだけでなく、バンドギャップが約3.37 eVの化合物半導体としても有望である。高い導電性を活かした透明電極として資源枯渇が心配されるインジウム系ITO材料を代替する動きが加速しています。

注3.ペット樹脂 ポリエチレンテレフタラート(Poly Ethylene Terephthalate)でPETと略記され、飲料水ボトルなどに広く使われています。融点253℃、ガラス転移点70℃、結晶化温度130℃と耐熱性は低いので、スパッタ・蒸着など温度を上げる通常の成膜法は使えません。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学名誉教授 田中 俊一郎
マイクロシステム融合研究開発センター
電話:022-229-4113
E-mail:shunichiro.tanaka.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学マイクロシステム融合研究開発センター
マイクロシステム支援室長
電話:022-229-4113
E-mail:micro-shien*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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