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酸素を求めて動く細胞 細胞性粘菌の酸素に対する集団的な走性を解明

【本学研究者情報】

〇東北大学流体科学研究所 准教授 船本健一
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 細胞性粘菌*1が低酸素環境下において動きを活発化させ、酸素を求めて集団的に遊走する性質を発見した。
  • 広範囲にわたる細胞の動きの追跡、酸素濃度のライブモニタリング、マイクロ流体デバイス*2を用いた酸素濃度制御、数理モデルの構築からなる学際的研究アプローチにより、細胞性粘菌の集団的遊走のメカニズムを理論的に説明した。
  • 細胞性粘菌の集団的な遊走は、酸素濃度に応じた細胞の分裂と走気性*3の変調の相互作用によって生じることを説明した。

【概要】

生体内の酸素濃度は時間的、空間的に変化しており、発生やがんの進行など様々な生命現象に深く関わっていると考えられてきました。しかし、酸素が細胞の遊走を直接的に誘引する物質であることはあまり認識されていませんでした。

仏国リヨン第1大学(Université Claude Bernard Lyon 1)と東北大学の共同研究チームは、真核細胞のモデル生物である細胞性粘菌が、酸素消費によって自己生成した酸素濃度勾配に応じて、酸素がより豊富な領域に向かって長期的・安定的にリング形状を形成しながら集団的に遊走することを発見しました。研究にあたっては、酸素センシングフィルムによる細胞周囲の酸素濃度のライブモニタリングと、マイクロ流体デバイスによる任意の酸素濃度勾配の生成を実現し、細胞性粘菌の集団的な遊走を説明する新しい数理モデルを構築しました。

本研究成果は、酸素濃度環境に依存する複雑かつ多様な真核細胞の細胞動態を理解する突破口になり、生命現象の解明と予測につながる重要な知見です。

本研究成果は、8月20日付でオープンアクセス誌eLifeに掲載されました。

図:自己生成した酸素濃度勾配環境下で観察される細胞性粘菌の酸素走性(上図)と、実際の細胞性粘菌と酸素濃度の顕微鏡観察結果(下図)

【用語解説】

*1 細胞性粘菌:和名キイロタマホコリカビ。アメーボゾアに属する真核生物で、土壌表層に生息する。単細胞のアメーバ細胞として増殖する時期と、集合して多細胞体を形成する時期を有する。その既知の遺伝子配列は生物学的に簡単でありながら、ヒト細胞の遺伝子とのオルソログ(共通祖先に由来する遺伝子)を有するとされる。細胞運動についてヒト白血球細胞との共通点も報告されており、有用なモデル生物として広く研究されていている。

*2 マイクロ流体デバイス:マイクロスケールの流路内で流体を制御するデバイス。シリコーン樹脂のポリジメチルシロキサン(PDMS)などを用いて作製されることが多い。近年、細胞実験への応用が盛んであり、生体内の臓器や器官の機能を模擬するチップOrgan-on-a-chipなどが開発されている。

*3 走気性:酸素によって細胞の遊走が誘起される性質であり、酸素に向かう走性を正の走気性、酸素から遠ざかる走性を負の走気性という。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学流体科学研究所
准教授 船本 健一
電話 022-217-5878
E-mail funamoto*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学流体科学研究所 広報戦略室
電話 022-217-5873
E-mail ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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