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世界初!旅客機主翼の流れの遷移メカニズムを解明 後退翼の層流化により空気抵抗の大幅減へ前進

【本学研究者情報】

〇流体科学研究所 助教 焼野藍子
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 大型旅客機などの後退翼1の前縁部の遷移2のもとになる波の発生を,スーパーコンピュータにより,世界で初めて可視化観察することに成功した.
  • 発生した波は,本研究での短時間のエネルギー増幅についての理論計算結果と一致した.これにより,半世紀にわたり未解明であった後退翼前縁部での遷移メカニズムが解明された.
  • 本研究結果により,流れの遷移のしやすさの簡便な予測法の精度が著しく向上すると期待され,将来的に低計算コストでの航空機開発を一層加速すると考えられる.

【概要】

航空機の大幅な低抵抗化を実現する方法の一つは,機体の形状の工夫や流体制御デバイスによる層流化3です.主翼の50%で層流状態を維持できれば,航空機の全抵抗の10%を削減できると考えられます.昨今の設計・製造技術の発達により実現可能性が高まり,世界各国で研究開発にしのぎを削っています.

東北大学流体科学研究所の焼野藍子助教と大林茂教授は,これまで未解明であった大型旅客機の特に主翼前縁で発生する層流から乱流への遷移メカニズムを,世界で初めて,スーパーコンピュータとエネルギー過渡増幅に着目した理論解析により,解明することに成功しました.本研究で構築した解析技術は,低計算コストな技術開発を可能にし,航空機開発において世界に一歩先んじる重要な成果とも言えます.

本研究成果は,米国現地時間2021年9月4日付で,本研究分野で最も権威ある学術専門誌の一つである「Physics of Fluids」に受理されました.

図1 後退翼前縁部周辺の流れ場の可視化の様子,遷移のもとになる波が縞模様で表れている
(等値面は変形速度テンソルの第二不変量,スパン方向速度で色付けしてある)

【用語解説】

1. 後退翼
遷音速から超音速域で飛行する航空機の主翼が,衝撃波による造波抵抗を減らすため付け根から翼端に向かって後退しているもの.飛行マッハ数が0.75以上の航空機で採用され,マッハ数が増すにつれて必要な後退角が増加する.

2. 遷移
流れに乱れのない層流から乱流へ状態が変化することを遷移という.遷移のしやすさは,理論的には微小擾乱の線形増幅率により判定される.本研究で有効性が確認された新しい理論 (エネルギー過渡増幅,Energy transient growth) を,大域的安定性解析 (Global stability analysis) に組み込むことで,遷移のしやすさを簡便に予測することができるようになる.このような遷移の予測法は,翼形状の最適設計や,翼面に設置する制御デバイスを開発する際に有用である.

3. 層流化
一般に層流化は,翼の形の工夫や流れの制御により,遷移の開始地点を後流へ遅らせることにより達成される.次世代超音速輸送機で採用が必須と考えられる低抵抗化技術の一つ.後退翼まわりでは流れは三次元化し複雑で,乱流に遷移しやすく,層流化は困難である.大型機では胴体で生じる境界層の乱れが主翼前縁部に侵入し,層流化をさらに難しいものとする.本研究をきっかけに,世界で初めて前縁部付近の流れの詳細を捉えることが可能になり,さらに遷移の発生メカニズムが解明されたので,層流化技術において世界に先駆ける重要な成果を得られたと考えられる.

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学流体科学研究所
航空宇宙流体工学研究分野
担当 助教 焼野 藍子
電話 022-217-5218
E-mail aiko.yakeno.b4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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