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ハイパー核の束縛エネルギー精密測定へ -ハイパートライトンパズルの解明に向けて-

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科物理学専攻 助教 吉田純也
研究室ウェブサイト

【概要】

理化学研究所(理研)開拓研究本部齋藤高エネルギー原子核研究室の齋藤武彦主任研究員、岐阜大学教育学部・工学研究科の仲澤和馬シニア教授、東北大学大学院理学研究科の吉田純也助教、立教大学大学院人工知能科学研究科の瀧雅人准教授らの国際共同研究グループは、大強度陽子加速器施設「J-PARC」[1]においてK中間子[2]ビームが照射された写真乾板データを、独自に開発した機械学習[3]モデルによって解析し、ハイパー核[4]の一種である「ハイパートライトン[4]」の生成と崩壊の事象を可視的に検出することに成功しました。

本研究成果は、写真乾板からハイパートライトンを大量に効率良く検出できることを示しており、その束縛エネルギー[5]を世界最高精度で決定することで「ハイパートライトンパズル」と呼ばれる謎の解決への貢献が期待できます。

ハイパートライトンは、重水素原子核[6]とラムダ粒子(Λ粒子)[7]から構成されており、それらの間に働く力による束縛エネルギーは1970年代までの測定結果が約50年にわたり信じられてきました。しかし、近年の実験でハイパートライトンの生成から崩壊に至るまでの寿命が束縛エネルギーから予測される値よりも有意に短い可能性が示されました。ハイパートライトンパズルと呼ばれるこの矛盾を解決するには、束縛エネルギーを精密に再測定することが重要です。

今回、国際共同研究グループは、物理シミュレーションと機械学習技術を組み合わせた解析手法を開発し、写真乾板データからハイパートライトンの生成と崩壊の事象を検出できることを実証しました。

本研究は、科学雑誌『Nature Reviews Physics』オンライン版(9月14日付)で掲載されました。

発見されたハイパートライトンの崩壊事象

【用語解説】

[1]大強度陽子加速器施設「J-PARC」
茨城県東海村に建設された、大強度陽子加速器と利用施設群の総称。Japan Proton Accelerator Research Complexの略。高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で運営している。加速器で加速した陽子を原子核標的に衝突させることで発生する二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの研究や産業利用を行っている。

[2]K中間子
中間子は、クォークと反クォークが一つずつ集まって構成される粒子。ストレンジクォークを含む中間子をK中間子と呼ぶ。

[3]機械学習、ニューラルネットワーク
機械学習とは、コンピュータを用いたデータ処理手法のうち、人間があらかじめ処理方法をプログラムするのではなく、大量のデータと正解例(教師データ)によってコンピュータに処理方法を構築させる技術。ニューラルネットワークは、機械学習に用いられる数理的モデルの一つで、生物の脳の神経回路網の仕組みを模したもの。ニューラルネットワークを用いた画像処理は2010年代半ば頃から急速に性能が向上し、現在ではさまざまな場面で応用されている。

[4]ハイパー核、ハイパートライトン
ハイパー核は、通常の原子核を構成する陽子と中性子のほかに、ハイペロンという粒子が加わった原子核のこと。ハイパートライトンは、ハイパー核の中で最も軽く、陽子、中性子、ラムダ粒子(ハイペロンの一種)から構成される。

[5]束縛エネルギー
原子核とラムダ粒子が束縛(結合)してハイパー核を形成したとき、そのハイパー核の質量は、芯となった原子核の質量とラムダ粒子の質量の合計よりも軽くなる。この質量の差を束縛エネルギーと呼び、ハイパー核にとって基本的な物理量である。ハイパートライトンは陽子一つ、中性子一つからなる重水素原子核にラムダ粒子が束縛したものと見なすことができ、その束縛エネルギーはハイパートライトンの質量から重水素原子核とラムダ粒子の質量を引いた値として定義される。

[6]重水素原子核
陽子一つと中性子一つから構成される重水素の原子核。原子は構成要素となる陽子の数によって原子番号が決まるため、陽子一つのみで構成される水素原子1Hに対して重水素は2Hと表記される。

[7]ラムダ粒子(Λ粒子)、ハイペロン
通常の原子核を構成する陽子や中性子がアップクォークとダウンクォークのみで構成されているのに対して、次に重いストレンジクォークが含まれる粒子をハイペロンと呼ぶ。ハイペロンには、ストレンジクォークを一つ含むラムダ粒子(Λ)やシグマ粒子(Σ)、二つ含むグザイ粒子(Ξ)、三つ含むオメガ粒子(Ω)が存在する。

※国際共同研究グループの詳細は、下記プレスリリース本文をご覧ください。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学 大学院理学研究科
助教 吉田 純也(よしだ じゅんや)
E-mail:jyoshida*lambda.phys.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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