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振動分光法を駆使した薬剤効能測定法の開発 ~アセチルコリン受容体を標的とした神経疾患の治療薬開発への期待~

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野 准教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 反射赤外分光法(注1)をムスカリン性アセチルコリン受容体(注2)に適用し、異なる薬剤効能(注3)を示す種々の薬物との結合に伴う受容体タンパク質の構造変化を捉えることに成功しました。
  • 各種薬物の効能と相関するアミド-I(注4)のバンド変化を得ることに成功し、この変化は細胞中のGタンパク質活性を反映することが分かりました。
  • 本研究は、ムスカリン性アセチルコリン受容体を標的とする創薬開発に貢献するとともに、薬物認識における分子機構の理解につながります。

【概要】

名古屋工業大学大学院工学研究科の片山耕大 助教、神取秀樹 教授、魲洸平 氏(研究当時:生命・応用化学専攻 博士前期課程2年)、関西医科大学医学部医化学講座の清水(小林)拓也 教授、寿野良二 講師、東北大学大学院薬学研究科の井上飛鳥 准教授、京都大学医学研究科の岩田想 教授らのグループは、全反射赤外分光法でGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一つ、ムスカリン性アセチルコリン受容体(M2R)に対する、異なる薬剤効能(ligand efficacy)を有する各種薬物結合に伴う構造変化を捉えることに成功しました(図1)。そして、それぞれの赤外差スペクトル(注5)におけるアミド-Iバンドの変化が各種薬物間で分類できる可能性を見出しました。実際、細胞アッセイを用いたGタンパク質活性の大きさとアミド-Iバンドの変化との間に相関性があることが分かりました。この研究成果により、全反射赤外分光法によって得られたアミド-Iのバンド変化がM2Rのligand efficacyを決めるプローブとなり得ることを示しただけでなく、従来の構造ベースの薬物結合ポケットを基盤とした薬剤設計指針とは異なる、相互作用解析から動的構造情報を抽出し薬効度を制御する新たな薬剤設計指針を提示できると期待されます。

研究成果は、2021年11月23日にオンライン科学雑誌「Communications Biology」誌に掲載されました。

図1 溶液循環型全反射赤外分光法から得られるM2Rの異なる薬物結合誘起差スペクトル

【用語解説】

注1 全反射赤外分光法
試料よりも屈折率の高いSiやダイヤモンドなどの材質からなる結晶を用い、その表面に試料を吸着させ、結晶内部で全反射となる角度で赤外線を入射させます。その際に、赤外線の反射面において結晶表面に染み出してくる近接場光(エバネッセント光)が、表面近傍に存在する試料によって吸収されます。エバネッセント光は赤外線の波長程度(3~10μm)しか表面に染み出さないため、表面近傍の赤外吸収のみを計測することを可能にしています。さらに1~5μg程度と比較的少量の試料で計測することも利点です。

注2 ムスカリン性アセチルコリン受容体
GPCRの一つで、パーキンソン病やアルツハイマー病に関わる神経伝達物質、アセチルコリンを天然リガンドとして受容する膜タンパク質です。5種類のサブタイプ(M1RからM5R)が存在しており、今回研究対象としたM2Rは、主に心臓に分布し、心臓機能を抑制的に調節しています。

注3 薬剤効能
GPCRの薬物はその生体活性によって、完全作動薬(full agonist)、飽和量薬物を投与しても部分的な活性しか示さない部分作動薬(Partial agonist)、基礎活性(薬物が結合していないGPCRが示す一定の弱い活性)を変化させない阻害薬(Antagonist)、そして基礎活性さえも抑制する逆作動薬(Inverse agonist)に分類されます。これらの薬剤効能の違いは"ligand efficacy"と呼ばれます。

注4 アミド-I
タンパク質の二次構造を構成するα-ヘリックスのペプチド結合におけるC=O伸縮振動を"アミド-Iバンド"と呼びます。一般的に1650 cm-1付近に赤外吸収を有します。

注5 赤外差スペクトル
薬物非結合状態と薬物結合状態の赤外スペクトルを差し引くことで得られるスペクトルのことを指します。薬物結合に伴う試料(タンパク質)の構造変化に由来する赤外吸収バンドが差スペクトルとして検出されます。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学大学院薬学研究科
准教授 井上 飛鳥(いのうえ あすか)
TEL: 022-795-6861
E-mail: iaska*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

東北大学大学院薬学研究科 総務係
TEL: 022-795-6801
E-mail: ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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