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高伝導度・安定性を併せ持つ新型酸化物イオン伝導体を発見 -燃料電池や酸素分離膜等への応用・開発を強力に促進-

【本学研究者情報】

〇工学研究科 助教 村上泰斗
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 希土類を含まない六方ペロブスカイト関連酸化物の酸化物イオン伝導体を発見し、世界最高クラスの伝導度を確認
  • 高温・高還元雰囲気においても、極めて優れた安定性と高い酸化物イオン伝導度を実現
  • 固体酸化物形燃料電池の低コスト化・用途拡大など多様な分野に応用可能

【概要】

東京工業大学 理学院 化学系の村上泰斗特任助教(研究当時。現:東北大学 大学院工学研究科 助教)、八島正知教授、高純度化学研究所の柴田稔也研究員らの研究グループは、豪州原子力科学技術機構(ANSTO)のヘスター・ジェームス博士と共同で、高い酸化物イオン伝導度を示し、希土類を含まない新物質Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15(用語1)を発見した。

従来の酸化物イオン伝導体(用語2)の多くは、希土類やビスマス、鉛、チタンといった元素を含んでおり、安定性や安全性(毒性)、資源確保の点で課題があった。また、既に実用化されている固体酸化物形燃料電池(SOFC)は動作温度が高く、低コスト化や用途拡大のために、中低温域(300~600℃)で高い酸化物イオン伝導度を示す材料が求められていた。

今回発見したBa7Ta3.7Mo1.3O20.15は909℃、酸素分圧1.6 × 10−24 気圧の高温還元雰囲気という過酷な条件においても優れた化学的・電気的安定性を示し、天然ガスの改質温度である600℃付近で世界最高水準の高い酸化物イオン伝導度を示した。こうした特徴は、既存の酸化物イオン伝導性六方ペロブスカイト関連酸化物(用語3)の問題点を解消するものである。さらに、結晶構造(用語4)解析を行ったところ、Moが酸化物イオン伝導層に隣接したサイトを選択的に占有し、高い伝導度発現に寄与していることが分かった。

今回発見した新物質Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15は中低温域で高い伝導度を示すだけでなく、安定性、安全性、資源確保の観点でも優れており、固体酸化物形燃料電池やガスセンサー、酸素分離膜など幅広い分野での応用が期待される。

本研究成果は、2021年12月19日(現地時間)にドイツの国際学術誌「Small」電子版に掲載された。

図1:(a) 新酸化物イオン伝導体Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15のバルク伝導度σb。縦軸は対数logσb、横軸は絶対温度Tの逆数1000/T。 (b) 全電気伝導度σtotの酸素分圧P(O2)依存性。縦軸は対数logσtot、横軸は酸素分圧P(O2)の対数log(P(O2))。 (c) Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15の26℃における結晶構造。

【用語解説】

(1) Ba7Ta3.7Mo1.3O20.15:バリウム、タンタル、モリブデン、酸素から構成される酸化物。六方ペロブスカイト関連酸化物の一つで、本研究で初めて合成された新物質である。

(2) 酸化物イオン伝導体:外部電場を印加したときに酸化物イオンが伝導する物質。酸素イオン伝導体とも呼ばれる。純酸化物イオン伝導体のほか、酸化物イオン-電子混合伝導体などが知られている

(3)六方ペロブスカイト関連酸化物:鉱物ペロブスカイトCaTiO3と同じあるいは類似した結晶構造を持ち、一般式ABX3で表される化合物をABX3ペロブスカイト型化合物と総称する(AはBa2+やLa3+などの比較的大きな陽イオン、Bは遷移金属イオンなどの比較的小さな陽イオン、Xは陰イオンを示す)。このペロブスカイト型化合物はAX3層の立方最密充填から構成されるが、六方ペロブスカイト型化合物はAX3層の六方最密充填からなる構造を有する。一方で六方ペロブスカイト関連化合物は、六方最密充填および立方最密充填が様々な比で積層した構造を持つ。いくつかの六方ペロブスカイト関連化合物はAX3層だけではなく、例えばAX2Vのような本質的に空孔Vを含む層を含む。

(4)結晶構造:結晶とは、狭義には原子の配列が並進周期性を持つ物質であるが、広義にはシャープな回折ピークを示す物質として定義される。結晶中の原子配列を結晶構造という。結晶構造は空間群(原子配列の対称性)、格子定数(単位胞の大きさと形)、原子座標(単位胞における原子の位置)などによって記述される。

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国立大学法人東北大学 工学研究科・工学部 情報広報室
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Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
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