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秩序と乱れが共存した高性能な液晶性有機半導体を開発 -電子回折により液晶が凍結した分子配列構造を確認-

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 教授 米倉功治
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 置換基効果により分子配列の秩序と乱れが共存した高性能な液晶性有機半導体(注1)を開発
  • クライオ電子顕微鏡(注2)を用いた電子回折により極薄な液晶凍結層のフル構造解析に成功
  • 半導体と液晶が融合したソフトマターエレクトロニクスへの展開に期待

【概要】

東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻の井上 悟 特任研究員、長谷川 達生 教授、理化学研究所 放射光科学研究センターの米倉 功治 グループディレクターらは、分子配列の秩序と乱れが共存した高性能な液晶性有機半導体を開発し、その極薄膜が液晶凍結状態であることを、クライオ電子顕微鏡を用いた電子線結晶構造解析(注3)により捉えることに成功しました

液晶は、棒状分子の長軸(長手方向)の配向秩序と横方向の配列の乱れが共存した固体と液体の中間状態で、多種の分子材料で発現し、それらの特有な分子の配向性が液晶表示素子として幅広く利用されています。近年、類似の棒状分子により高性能な有機半導体が得られ、またこれらの多くが高温で液晶相に変化することが明らかとなっており、液晶が持つ優れた機能を有機半導体の高度化のために積極的に活用する研究が注目されています。しかし、これら半導体のデバイス性能は液晶状態では著しく低下することが課題となっていました。本研究では、有機半導体分子の置換基に多彩な制御を施す高度な分子設計をもとに、高性能な液晶性有機半導体の開発に成功しました。さらに、得られた液晶性有機半導体の内部で分子配列の秩序と乱れが共存する様子を、最先端のクライオ電子顕微鏡を用いた電子線構造解析技術により捉えることに成功しました。

本研究により、柔らかな液晶状態において高いデバイス性能を示す有機半導体を用いた、新たなソフトマターエレクトロニクスへの展開が期待されます。

本研究成果は、2021年12月22日(米国東部時間)に米国科学誌Chemistry of Materialsオンライン版に掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「実験・計算・データ科学融合による塗布型電子材料の開発」(研究代表者:長谷川 達生、JPMJCR18J2)、JSPS科研費基盤研究A(21H04651)、基盤研究B(19H02579)、基盤研究C(21K05209)、JSPS新学術研究領域(19H053121)による支援を受けて行いました。

図1 有機半導体の分子構造とディスオーダー型層状結晶構造
(A):新たに開発した有機半導体(PE-BTBT-Cn)の化学構造とファンデルワールス半径を用いた空間充填モデル。炭素原子を青で示した部位がアルキル基、紫で示した部位がフェニルエチニル基。 (B):結晶構造解析によって得られたディスオーダー型層状ヘリンボーン構造の構造秩序。分子長軸の配向方向が積層の上下方向に対して完全にランダムに配置されているため、図中、水色の点線を境界にしてパイ電子骨格が特定の座標に高秩序に配列した層と、置換基がディスオーダー(図中、青と紫で示した原子位置に、結晶全体で見た時にはちょうど1:1の割合になるようにランダムに置換基が配置された状態)した層とで結晶構造が形成される。1分子を局所的に見れば、必ずどちらかの方位に分子が配向しているが、どちらに配向しているかを決定することができない結晶である。

【用語解説】

(注1)有機半導体:
炭素・水素・酸素などから構成される半導体材料。軽量・しなやか・有機溶媒に溶かせるという特長を有し、ファンデルワールス力で凝集することで固体を形成する。デバイス中での電気伝導特性は、凝集における秩序構造や、組み合わせる絶縁層部材などに大きく依存する。

(注2)クライオ電子顕微鏡:
液体窒素(-196℃)冷却下で試料に対して電子線を照射し、試料を観察することのできる装置。試料に電子線を照射し、透過した電子線の強度から試料の構造や電子状態を観察するタイプの電子顕微鏡を透過型電子顕微鏡(TEM)といい、これを低温で使用する方法。クライオ電子顕微鏡を用いたタンパク質の立体構造を精密に解析する手法開発を通して近年急速に技術革新が進んでおり、解析手法の開発に貢献した海外の研究者3人が2017年にノーベル化学賞を受賞している。

(注3)電子線結晶構造解析:
結晶に電子線を照射すると、電子は試料を透過する際に散乱される。その際に生じる回折パターンから結晶中での原子・分子の配列構造を決定する手法。本研究ではクライオ電子顕微鏡を用いて、電子線による回折パターンを観測している。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 米倉 功治 (よねくら こうじ)
E-mail:koji.yonekura.a5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
広報情報室
電話: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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