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糖尿病性腎症の原因物質であるフェニル硫酸は腸から糖の吸収を行う輸送体を阻害することで減少できる

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科病体液性制御学分野/大学院医工学系研究科分子病態医工学分野 教授 阿部高明
ムーンショット型研究開発事業(ミトコンドリア先制医療)

【発表のポイント】

  • 血液中のフェニル硫酸注1は糖尿病性腎臓病注2の原因物質であり、その血中濃度を下げる方法が求められていた。
  • 腸からの糖の吸収を行う輸送体(SGLT1)注3を特異的に阻害するSGLT1阻害剤を腎不全マウスに投与することで、フェニル硫酸の低下と腎機能改善がもたらされた。
  • SGLT1特異的阻害剤を用いて腸からの糖吸収を抑制することが、血糖をさげてフェニル硫酸を低下させる重要な治療法となりうる。

【概要】

糖尿病性腎臓病は、糖尿病患者の約20〜30%が発症し、透析導入率としては第1位、透析患者さん全体の4割を占める疾患です。糖尿病性腎症を早期に感知することは、透析にいたる患者さんを減らす上で非常に重要です。

東北大学大学院医学系研究科および同大学院医工学研究科の阿部高明教授の研究グループは、腸内細菌が作り出すフェニル硫酸が腎臓のミトコンドリア機能を傷害することで、糖尿病性腎臓病を悪化させる事を報告してきました。つまり、血中フェニル硫酸を減らすことが、透析導入を抑制する重要な治療法につながると考えられました。今回、阿部教授のグループは、腸から糖を吸収する輸送体であるSGLT1を阻害することで血糖降下作用のあるSGLT1阻害剤SGL5213注4を腎不全マウスに投与すると、血中フェニル硫酸濃度が低下し、腎機能が改善する事を明らかにしました。本研究により糖尿病患者さんは、SGLT1阻害剤を服用することによりフェニル硫酸の産生が抑制され、糖尿病性腎症から腎不全への進展が抑えられる可能性が示唆されました。

本研究結果は、Physiological Reportsに2021年12月18日に発表されました。

図1.SGLT5213を腎不全マウスに投与する事で、フェニル硫酸、トリメチルアミン-N-オキシドの血中濃度が低下し腎機能(BUN、Cr)が改善した。

【用語解説】

注1. フェニル硫酸:食事に含まれるチロシンが腸内細菌によってフェノールに変わることにより生体内で出来る代謝物。糖尿病患者の血中に多く、腎臓のミトコンドリア機能を傷害することでアルブミン尿が出る原因となり、また腎臓の予後を予測するマーカーでもある。

注2. 糖尿病性腎臓病:慢性腎臓病(CKD)のなかで、糖尿病がその発症・進展に関与する腎臓病。透析導入の第1番目の原因である。

注3. 輸送体SGLT1:Na+グルコース輸送体、体内でグルコースを吸収するトランスポーター。腎臓ではSGLT2が90%、SGLT1が10%の割合で糖の吸収をつかさどる。一方、腸管ではSLGT1が主にグルコースの吸収をおこなう。

注4. SGL5213: 腸管でSGLT1を特異的に阻害する化合物

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科病体液性制御学分野
東北大学大学院医工学系研究科分子病態医工学分野
教授 阿部 高明
Eメール:mitomoonshot*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-8032
FAX番号:022-717-8187
Eメール:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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