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数百ナノメータの半導体量子構造で偶数分母の分数量子状態を発見 -通常の高移動度系を用いて世界ではじめて偶数分母状態を実現-

【本学研究者情報】

〇東北大学先端スピントロニクス研究開発センター 
センター長 総長特命教授 平山祥郎(ひらやまよしろう)
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 半導体量子構造の代表例である量子ポイントコンタクト(以下、QPC)(注1)において、センターゲート付きQPCを用いた場合、中央部分の400nm×600nmの領域に、エラーに強い量子操作(注2)への期待が持てる偶数分母状態(注3)(3/2状態)が出現することを発見した。
  • これまでの偶数分母状態の研究は移動度(注4)が107cm2/Vsを超える超高移動度GaAs/AlGaAsヘテロ構造を用いたものに限られていた。今回、移動度が106cm2/Vs程度の通常の高移動度GaAs/AlGaAsヘテロ構造上に作製した量子構造で3/2状態が観測できることを世界で最初に確認し、これまでの常識を覆した。(図)
  • 通常の高移動度半導体の数百ナノメータ領域で偶数分母状態が実現されたことで、偶数分母状態を用いたエラーに強い量子操作の研究が加速されることが期待される。

【概要】

強相関電子系を理解する鍵となる分数量子ホール効果では、移動度が107cm2/Vsを超える超高移動度GaAs/AlGaAsヘテロ構造での偶数分母状態のみが知られていました。東北大学先端スピントロニクス研究開発センターの平山祥郎総長特命教授、東北大学大学院理学研究科の橋本克之助教、柴田尚和教授らのグループは、典型的な半導体量子構造であるQPCにおいてセンターゲートを有する構造を用いることで、通常の高移動度(106cm2/Vs程度)GaAs/AlGaAsヘテロ構造上での特別な偶数分母状態(3/2状態)がQPCの中央付近に実現できることを世界に先駆けて確認しました。この研究成果により、特別に高度なMBE装置(注5)を必要とする超高移動度のヘテロ構造を用いなくても、通常のある程度整備されたMBE装置で成長できる高移動度半導体量子構造でもエラーに強い量子操作の研究が加速されることが期待されます。

なお、研究成果はApplied Physics Expressのオンライン版に2022年1月31日(英国時間)に掲載されました。

図1:(a)今回の研究に用いたセンターゲート付きQPCの概略図。両側のスプリットゲートに同じ電圧Vsg、センターゲートにVcgの電圧が印加されている。QPCの中央の状態を測定する対角抵抗値(Rdiag)は試料に交流電流Iacを流した時のVDの出力からRdiag=VD/Iacで求められる。(b)はQPC中央部のSEM写真である。L = 400 nm、W = 600 nmでスプリットゲートの中央に幅200 nm ( = 0.2 μm)のセンターゲートが配置されている。

【用語解説】

(注1)量子ポイントコンタクト
GaAs/AlGaAsなどのヘテロ構造に存在する平面状の電子系を短い狭いチャンネルで接続した構造。ポイントに近い短いチャンネルで電子系が結合されており、さらに両側から細線化されたことに対応した量子化特性がゼロ磁場で観測されることから、量子ポイントコンタクト(QPC:Quantum Point Contact)と呼ばれている。今回作製したQPCもゼロ磁場で明瞭な量子化特性が観測されており、良好なQPCが作製できていることがわかる。

(注2)量子操作
量子コンピュータなどを実現するにあたり、量子ビットを操作することを量子操作と言う。量子コンピュータに向けた量子ビットは超伝導体や半導体のスピンを利用したもので実現されているが、量子状態は脆弱でエラーに強い量子操作は難しい。

(注3)偶数分母状態
分数量子ホール効果(注6)の中でも分母が偶数の分数量子ホール状態を言う。通常の分数量子ホール効果の理論では説明することができず、全く異なる統計に従う可能性が示唆されている。この場合、エラーに強い量子操作が可能になることが理論的に示され、欧米で積極的な研究が進められている。GaAs/AlGaAsヘテロ構造で観測されるランダウレベル充填率 ν = 5/2が一番有名であるが、最近は ν = 3/2状態の存在も注目されている。これまで偶数分母状態が報告された単一の二次元系の実験では、すべて超高移動度のヘテロ構造が使用されている。

(注4)移動度
半導体中で電子が移動するし易さを示す指標であり、不純物が少なくポテンシャル揺らぎの小さい系ほど大きな移動度を示す。GaAs/AlGaAsヘテロ構造中の電子系の場合、MBE装置(注5)を良好な状態に保ち、注意深く成長したものでは106cm2/Vsを超える高移動度を得ることができる。特に特別な工夫を施したMBE装置では107cm2/Vsを超える移動度が実現されており、超高移動度という。超高移動度が実現できる研究機関は世界中で3機関程度に限定されている。

(注5)MBE装置
分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy)装置。高純度のGaAs/AlGaAsヘテロ構造を成長する結晶成長法としてMBE法は確立されており、MBE装置を良好な状態に保ち、注意深く成長したものでは106cm2/Vsを超える高移動度を得ることができる。一方で、107cm2/Vsを超える移動度を実現するには、特に特別な工夫を施したMBE装置が必要で、保有する研究機関は限られる。

(注6)分数量子ホール効果
1998年にLaughlin、Störmer、Tsuiがノーベル物理学賞を受賞した成果で、1985年にノーベル物理学賞を受賞したvon Klitzingの整数量子ホール効果に対して、電子相関に基づく分数量子状態の量子ホール効果が出現したものである。ただし、Laughlinらの理論により説明される通常の分数量子ホール効果は奇数分母に限られる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学先端スピントロニクス研究開発センター
センター長・総長特命教授 平山祥郎(ひらやまよしろう)
電話:022-795-3880
E-mail:yoshiro.hirayama.d6*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話: 022-795-6708
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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