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光でイオンを輸送する膜タンパク質の巧妙な仕組み-XFELが捉えた光駆動型イオンポンプロドプシンの構造変化-

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 教授 南後恵理子
研究室ウェブサイト

【概要】

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センタータンパク質機能・構造研究チームの白水美香子チームリーダー、保坂俊彰技師、放射光科学研究センター分子動画研究チームの南後恵理子チームリーダー(東北大学多元物質科学研究所教授)、同SACLA利用技術開拓グループ岩田想グループディレクター(京都大学大学院医学研究科教授)、兵庫県立大学大学院理学研究科の久保稔教授、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室の登野健介主席研究員、東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授、東京大学大気海洋研究所附属地球表層圏変動研究センターの吉澤晋准教授らの共同研究グループは、太陽光などの光を受けて塩化物イオン(Cl)を細胞内に輸送する海洋細菌由来の「光駆動型イオンポンプロドプシン[1]」の構造変化を、X線自由電子レーザー(XFEL)[2]施設「SACLA[3]」を用いた高解像度の構造解析により解明しました。

本研究成果は、光駆動型イオンポンプロドプシンのイオン輸送の仕組みを理解する上で重要な知見であり、光を使って神経細胞機能などを操作する光遺伝学(オプトジェネティクス)[4]のさらなる改良への応用が期待できます。

海洋細菌Nonlabens marinusが持つ光駆動型イオンポンプロドプシンNM-R3[5]かって塩化物イオンを輸送する機能を持ちます。

今回、共同研究グループは「SACLA」を用いた「時分割結晶構造解析[6]」により、光照射に伴うNM-R3の構造変化を詳細に捉えることに成功しました。この結果からNM-R3が塩化物イオンを輸送するメカニズムと輸送経路を明らかにするとともに、イオンの逆流や過流入を防ぐ巧妙な仕掛けがあることを見いだしました。

本研究は、科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』オンライン版(2月23日付)に掲載されました。

光駆動型イオンポンプロドプシンNM-R3の立体構造(青丸は輸送中の塩化物イオン)

【用語解説】

[1] 光駆動型イオンポンプロドプシン
レチナールを発色団として持つ膜タンパク質であり、光が当たるとイオンを細胞の内外に輸送する機能を持つ。水素イオンやナトリウムイオンなどの陽イオンを細胞外に排出するバクテリオロドプシンやKrokinobacter rhodopsin 2(KR2)、塩化物イオンを細胞内に輸送するハロロドプシンなどがある。当初、光駆動型イオンポンプロドプシンを持つ微生物は高塩濃度に適応した細菌に特有のものと見られていたが、近年、多くの海洋細菌がこの遺伝子を持つと考えられている。

[2] X線自由電子レーザー(XFEL)
既存の放射光施設で用いられるX線と比べて非常に高輝度で位相のそろった、数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)のX線パルスレーザー。短時間で回折測定を行うことができるため、測定時に通常の放射光施設での測定では回避ができないX線による損傷がない構造を見られることに加えて、時分割結晶構造解析のような測定にも用いられる。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。

[3] SACLA
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free-electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から供用運転が開始され、利用実験が始まった。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにも関わらず、0.1ナノメートル(nm、100億分の1メートル)以下という短波長のレーザー光の生成能力を有する。

[4] 光遺伝学(オプトジェネティクス)
光感受性のイオンチャンネルや酵素を細胞内に発現させ、それらの機能や形態形成などを光で制御する技術。微生物型ロドプシンによる神経細胞の活動電位制御などが行われている。

[5] NM-R3
塩化物イオンを細胞内に輸送するタンパク質。タンパク質内部に光に反応する発色団であるレチナールを持つ。NM-R3はNonlabens marinus rhodopsin-3の略。

[6] 時分割結晶構造解析
結晶中の分子の微細な動きを高い時間分解能で観察する手法。本研究では、室温で微結晶を連続的にX線自由電子レーザーのX線照射ポイントまで流し、これに構造変化を引き起こす緑色レーザー光を照射する装置を組み合わせてデータを取ることで、光駆動性イオンポンプロドプシンにおける構造変化を観察した。Time-resolved serial femtosecond crystallography(TR-SFX)法の訳語。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 南後 恵理子 (なんご えりこ)
E-mail:eriko.nango.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 
広報情報室
電話: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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