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ホスト−ゲスト間電子移動の制御による磁石スイッチ 新たな電子状態変換機構に基づく磁気相変換に成功

【本学研究者情報】

〇 金属材料研究所 教授 宮坂 等
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • ヨウ素の吸脱着により反強磁性体と常磁性体間を繰り返し変換可能な多孔性材料の開発に成功しました。
  • ホスト骨格と吸着分子が直に電子の授受を行う機構に基づく磁気相変換を世界で初めて実現しました。
  • 化学的刺激により駆動する分子デバイスの新たな駆動原理として期待されます。

【概要】

近年、従来の磁性体では実現不可能であった機能性の発現などの「磁石の高機能化」が求められるようになっています。東北大学学際科学フロンティア研究所の張俊 助教と東北大学金属材料研究所の高坂亘 助教、宮坂等 教授の研究グループは、大阪大学大学院基礎工学研究科の北河康隆 准教授と共に、ヨウ素を吸着させることで、反強磁性相から常磁性相へと変換可能な新たな多孔性材料の開発に成功しました。

今回開発された材料は分子性多孔性材料*1の一種で、層状構造の層の間にジクロロメタンやヨウ素などの小分子を出し入れできるのが特徴です。この分子性多孔性材料は反強磁性体*2と呼ばれる磁気秩序*3を持つ磁石の一種ですが、ヨウ素を吸着させると磁石ではなくなる(常磁性状態)*4ことを確認しました。逆にこの材料は、真空加熱処理でヨウ素を脱離させることで元の状態へと戻ります。本現象は、吸着されたヨウ素分子が分子格子から電子を受け取ることで、分子格子の電子状態を変化させ、磁気秩序を持たない状態になることで生じたものです。吸着分子とホスト骨格の間で電子の授受を直接行うことで駆動する可逆磁気相変換は世界初で*5、化学的刺激により駆動する分子デバイスの新たな駆動原理の一つとして今後の発展が期待できます。

本研究成果は、2022年2月21日付け(現地時間)でドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。

図1. 電子供与性分子(水車型ルテニウム錯体)と電子受容性分子(TCNQ誘導体)から合成される層状化合物の模式図。

【用語解説】

※1 分子性多孔性材料 
ゼオライトや活性炭、シリカゲルのような無機物のみから構成される従来の多孔性材料に対して、金属イオンと有機配位子から構成される多孔性材料の総称です。金属−有機複合骨格(Metal−Organic Framework; MOF)や多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer; PCP)などと呼称されます。金属イオンの配位環境と有機物の持つ高い分子設計性に特徴があり、ナノサイズの細孔を利用した気体吸蔵・分離・触媒・センサーなどの分野での応用が期待されています。

※2 反強磁性体 
物質中の電子スピン間に磁気的な相互作用が働き、それが三次元的に長距離に及ぶことにより磁石となります。一般的な磁石は通常、強磁性体、あるいはフェリ磁性体のどちらかです。磁石には磁気相転移温度が存在し、それより高い温度領域では常磁性体となります。しかし、隣接する電子スピン同士が逆方向を向く相互作用(反強磁性的相互作用)が働き互いに打ち消し合う場合には、物質全体としては磁化を持たず、通常の意味での磁石とはなりません。このような物質のことを反強磁性体といいます。反強磁性体にも磁気相転移温度が存在し、それより高い温度領域では常磁性体となります。しかしながら、ここでは反強磁性体も磁気秩序を持つ状態であるという事で、広い意味での「磁石」であると捉えました。

※3 磁気秩序
常磁性、強磁性、反強磁性、フェリ磁性をはじめとする様々な電子スピンの配列の様式(磁気秩序状態)を総称して磁気相といいます。常磁性は秩序を持たない状態であり、強磁性、反強磁性、フェリ磁性は磁気秩序を持つ状態です。磁石として機能するのは、強磁性、フェリ磁性の磁気秩序状態であり、反強磁性は、通常の意味での磁石としての機能は持たない磁気秩序状態になります。しかしながら、ここでは反強磁性体も磁気秩序を持つという事で、広い意味での「磁石」であると捉えました。

※4 常磁性
物質の電子スピンがバラバラの方向を向いているために非磁性であるが、磁場を印加すると、その方向に弱く配列する性質を常磁性と言います。常磁性を示す物質を常磁性体といい、常磁性体は、強力な磁石を近づけるとそちらに引き寄せられます。しかし、磁場を取り除くとスピンはまたバラバラの方向を向いてしまうため、常磁性体は、いわゆる磁石としての性質は持ちません。

※5 多孔性磁石
磁石を磁石ではなくする例としては、酸素や二酸化炭素等の吸脱着を利用した磁石のON-OFF(磁気相変換)が可能な材料が、これまでの研究において見出されていました(下記参照)。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

◆研究内容に関して
東北大学金属材料研究所 錯体物性化学研究部門 教授
宮坂 等(ミヤサカ ヒトシ)
TEL:022-215-2030
Email:miyasaka*imr.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

◆報道に関して
東北大学金属材料研究所 情報企画室広報班
TEL:022-215-2144 FAX:022-215-2482
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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