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コロナ禍でのヤングケアラーの孤立と心の健康の悪化 英国コホート研究のデータを用いたコロナ前との比較

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科精神看護学分野 准教授 中西三春
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 英国の2018-19年(17歳時)にヤングケアラー注1であった人はケアラーでない人と比べ、2020年のコロナ禍で心理的な苦痛注2や精神的なウェル・ビーイング(幸福度)注3がより悪化していました。
  • ヤングケアラーでの心理的な苦痛や精神的なウェル・ビーイングの悪化には、ソーシャル・サポート注4の低さや社会的孤立注5が関連していました。
  • 本知見は、コロナ禍でヤングケアラーがより社会的に不利な立場におかれていることを示しており、心理社会的な支援の必要性を示唆しています。

【概要】

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大下におけるヤングケアラーの心の健康が懸念されています。しかし、コロナ前後で心の健康を定量的に把握した研究はありませんでした。東北大学大学院医学系研究科・精神看護学分野の中西三春准教授らのグループは、英国ミレニアムコホート研究注6で2018-19年の17歳時調査および2020年5月~2021年3月のCOVID-19調査に参加した3,927名のデータを解析しました。17歳時にヤングケアラーであった311名とケアラーでない3,616名とで、心理的な苦痛や精神的なウェル・ビーイング(幸福度)のコロナ前後での変化を比較しました。その結果、ヤングケアラーはケアラーでない者と比べて、心理的な苦痛や精神的なウェル・ビーイングがコロナ禍でより悪化していました。さらにヤングケアラーのほうが、コロナ禍においてソーシャル・サポートが低く、社会的孤立を感じていました。心の健康指標の悪化にはこれらソーシャル・サポートの低さや社会的孤立が関連していました。本研究の結果はコロナ禍がもたらすヤングケアラーの社会的不利を明らかにしたものであり、心理社会的な支援が彼らに届けられるよう体制を構築する必要性を示唆しています。

本研究成果は、2022年3月11日にJournal of Adolescent Health誌(電子版)に掲載されました。

図1.ヤングケアラーとケアラーでない人の心の健康指標の平均推移
心理的な苦痛は0-24点の範囲をとり得点が高いほど苦痛が大きいことを示す。精神的なウェル・ビーイングは7-35点の範囲をとり得点が高いほど幸福度が高いことを示す。

【用語解説】

注1. ヤングケアラー:一般に、支払いを受けない介護(家族への介護)を提供する18歳未満の者をさす。

注2. 心理的な苦痛:ミレニアムコホート研究ではケスラーの簡易調査票K6で評価された。苦痛には抑うつ、不安を含む。K6は0-24点の範囲をとり、得点が高いほど苦痛が大きいことを示す。

注3. 精神的なウェル・ビーイング:ミレニアムコホート研究ではポジティブな精神的健康状態をはかる尺度WEMWBSで評価された。WEMWBSは7-35点の範囲をとり、得点が高いほど幸福度が高いことを示す。

注4. ソーシャル・サポート:社会における人とのつながりの中で受ける支援。ミレニアムコホート研究ではSocial Provisions Scale(SPS)の3項目版で評価された。

注5. 社会的孤立:客観的にみて、家族やコミュニティとほとんど接触がない状態。ミレニアムコホート研究ではUCLA孤独感尺度で評価された。

注6. ミレニアムコホート研究:イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで2000-02年に出生した18,818名を対象とした住民コホート調査。英国では新型コロナウイルス感染症の拡大下における人々の心と身体の健康およびウェル・ビーイングを把握する目的で、ミレニアムコホート研究を含む5つのコホートの参加者を対象にCOVID-19調査を実施した。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科精神看護学分野 准教授 中西三春
電話番号:022-717-8179 
Eメール:nakanishi-mh*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(取材に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
電話番号:022-717-8032 
FAX番号:022-717-8187
Eメール:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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