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インスリン分泌に必要なセレンの働きを解明 ―膵β細胞の生存・インスリン産生に重要な作用を発見―

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 代謝制御薬学分野 教授 斎藤芳郎
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 必須微量元素セレンを含む"セレノプロテインP(SeP)" 注1が、インスリンを分泌する膵β細胞の機能に重要な役割を果たすことを発見しました。
  • セレノプロテインPが細胞内のセレン含有タンパク質を維持し、"フェロトーシス"と呼ばれる細胞死を抑制することを明らかにしました。
  • セレノプロテインPがインスリン前駆体の分解を抑制し、インスリン産生・分泌に重要な役割を果たすことを明らかにしました。

【概要】

必須微量元素"セレン" 注2 は、体にとって必要な元素ですが、毒性が強いことも知られ、私たちの体の中では厳重に管理されています。そのセレンを多く含む"セレノプロテインP"は、主に肝臓で合成された後、血液中に分泌され、各臓器にセレンを運ぶ役割を担っています。インスリンを産生・分泌する膵臓β細胞がセレノプロテインPを発現することは知られていましたが、その役割は不明でした。東北大学大学院薬学研究科の斎藤芳郎教授と同志社大学大学院生命医科学研究科の北林奈々子氏、中尾昌平氏、三田雄一郎助教らは、膵β細胞モデルMIN6細胞のセレノプロテインP発現を低下させた結果、細胞内のセレン含有タンパク質が低下し、フェロトーシス注3と呼ばれる鉄依存的な脂質酸化反応を伴う細胞死が誘導されることを発見しました。さらに、セレノプロテインPの低下に伴い、インスリン前駆体が分解されることを見いだしました。このことから、膵β細胞が発現するセレノプロテインPは、フェロトーシス細胞死を抑制し、インスリンの産生・分泌を維持する重要な役割を果たしていることが明らかとなりました。今後、膵β細胞を保護する薬剤開発への応用が期待されます。

この研究成果は、2022年3月22日(火曜日)に米国科学誌『Free Radical Biology & Medicine』にオンライン掲載されました。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)や新学術領域(生命金属科学)、AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業により実施しました。

【用語解説】

注1. セレノプロテインP(SeP):必須微量元素セレンを含むタンパク質で、肝臓で主に合成され、血液中に分泌される。分泌されたSePは、各臓器にセレンを運ぶ役割を果たす。SePによって運ばれたセレンは、細胞内に存在するセレン含有タンパク質の合成に用いられる。細胞内セレン含有タンパク質として、反応性の高い酸素(活性酸素)を除去するグルタチオンペルオキシダーゼGPxが知られている。生体内には、25種類のセレン含有タンパク質が存在しており、セレノプロテインKなど機能がまだよく分かっていないものも存在する。

注2. セレン:約200年前にスウェーデンで発見された元素で、月の女神"セレーネ"にちなんで名付けられた。反応性が高く、強い毒性を持つ一方で、必須微量元素であり、欠乏症や過剰症が知られる。セレンは魚介類や肉類、穀物にも含まれている。セレンの必須な生理作用は、セレン含有タンパク質によって担われている。セレンは、活性酸素の除去や生体防御に重要であるが、過剰になると2型糖尿病など生活習慣病の発症リスクが高まることが知られている。

注3. フェロトーシス: 鉄依存的な脂質酸化反応(フェントン反応と呼ばれる)を伴う細胞死で、細胞内に脂質酸化物の蓄積が見られる。セレンを含むGPx4は、脂質酸化物を除去し、フェロトーシスを抑制することが知られている。GPx4が低下すると、脂質酸化物が増加し、フェロトーシスが誘導される。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学大学院薬学研究科
教授 斎藤芳郎
電話 022-795-6870
E-mail
 yoshiro.saito.a8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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