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新しい高精度シミュレーションが明らかにした星団形成の現場

【本学研究者情報】

大学院理学研究科 天文学専攻
研究員 平居悠(ひらいゆたか)
専攻ウェブサイト

【発表のポイント】

  • オリオン大星雲の中心部にある星団(注1)から互いの重力による加速で弾き出された大質量星が、オリオン大星雲の電離領域(注2)の形成のきっかけとなった可能性を、スーパーコンピュータを用いた数値シミュレーションと観測データから示した。
  • 星団内の星の重力による運動を従来の手法より高精度で解く星団形成シミュレーションコードを新規開発し、それを用いることでオリオン大星雲内の星の運動を再現することができた。
  • 本研究は星一つ一つの運動を追う新しい星団・銀河シミュレーションを行う「SIRIUS」プロジェクトの一環であり、今後はより大規模な星団形成シミュレーションを行い、星団の成り立ちを明らかにしていく。

【概要】

星は分子雲(注3)という低温で高密度の主に水素分子からなる星間ガスの中で生まれますが、多数の星が近くで同時に生まれると、星団と呼ばれる星の集まりとなります。星団は大質量星(太陽の約8倍以上重い星)を含むことが多く、大質量星が生まれる場所として注目されています。自らの重力によってガスが落ち込んでくるような巨大分子雲で星団や大質量星が生まれ、大質量星はやがて星の原料となる分子ガスを電離し、吹き飛ばし、星形成を終わらせます。オリオン大星雲は、このような過程が今まさに起こっている現場だと考えられています(図1)。

星団形成の様子は、近年、スーパーコンピュータを用いた数値シミュレーションによって解析が進められています。数値シミュレーションは、天体現象の時間進化を理解する上で重要な手法ですが、現在のスーパーコンピュータで行うことができる数値シミュレーションの正確さには限界があります。

東京大学大学院理学系研究科の藤井通子准教授らは、独自に開発したシミュレーション手法を用い、これまでより星の運動を正確に解いた星団形成シミュレーションを行いました。その結果、星同士の重力相互作用によって大質量星が星団の中心から外縁部へと弾き出される時に、星団中心部分に集まる密度の高い分子雲の一方に穴を開け、星団の中心から一方向に広がる電離領域が作られました。また、ガイア衛星(注4)の観測データとの比較により、オリオン大星雲の大質量星の運動が、シミュレーションから予測されるものと一致していることを示しました。

本研究は「SIRIUS」プロジェクトの一環として、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」(注5)を用いて行われました。今後は、この新規開発コードを用いたより大規模なシミュレーションを行い、未だ形成過程の解明されていない大質量星団の形成過程を明らかにしていくことが期待されます。

図1:a)オリオン大星雲。θ1 Ori Cはオリオン大星雲で最も大質量で明るい星であり、星団の中心部に存在する。NU Oriとθ2 Ori Aも大質量星であり、図2のように、重力相互作用によって星団中心から弾き出された星であると考えられる。黄色で囲われた赤~ピンクの部分は高温の電離水素で満たされた電離領域である。一方、星団の左上の黒っぽい部分は、低温の水素分子ガスが集まっている領域(分子雲)である。分子雲の中では、新しい星が生まれつつある。(画像クレジット:NASA, ESA, M. Robberto (Space Telescope Science Institute/ESA) and the Hubble Space Telescope Orion Treasury Project Teamを改変)

【用語解説】

(注1)星団:数十から数百万個の星が互いの重力で束縛されて集まっている天体。

(注2)電離領域:大質量星から放出された多量の電離光子(紫外線領域の光子)によって、星間ガスの主成分である水素が電離されている領域。図1の写真で、赤~ピンクの明るい部分。

(注3)分子雲:主に水素分子からなる低温で高密度の星間ガス。分子雲の中で新しい恒星が生まれる。

(注4)ガイア衛星:星の正確な位置や速度を測ることを目的とし、2013年にヨーロッパ宇宙機関によって打ち上げられた観測機。現在、18億個以上の星について、観測データを公開している。地球を周回せずラグランジュ点で観測を行うため厳密には衛星ではないが、ここでは便宜上衛星と呼ぶことにする。

(注5)アテルイⅡ:国立天文台が運用するシミュレーション天文学専用のスーパーコンピュータ(Cray XC50)。岩手県奥州市の国立天文台水沢キャンパスに設置され、天文学専用機として世界最速の理論演算性能3.087ペタフロップス(1秒間に浮動小数点計算を3000兆回行う)ほこる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

<研究内容について>
東北大学大学院理学研究科 天文学専攻
研究員 平居 悠(ひらい ゆたか)
TEL:022-795-6607
E-mail:yutaka.hirai*astr.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

<報道関係のお問い合わせ>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
E-mail:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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