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A Iを利用し「量子指紋」を解読することに成功 ―電気抵抗からナノ微細構造を再現―

【本学研究者情報】

〇材料科学高等研究所 教授 齊藤英治
研究者情報

【発表のポイント】

  • ミクロなレベルでの試料の構造や不純物などの情報を持つ「量子指紋」を理解できるAIを開発した。
  • 電気抵抗由来の量子指紋を解読することで、電気抵抗の情報のみから金属内部のミクロな構造を復元することに成功した。
  • AIを利用したナノ構造顕微鏡への応用が可能であると考えられ、次世代エレクトロニクスデバイス開発への貢献が期待される。

【概要】

東京大学大学院工学系研究科・Beyond AI研究推進機構の大門俊介 助教、齊藤英治教授らを中心とする研究グループは、上智大学理工学部の大槻東巳 教授らと共同で量子を理解するAIを開発し、電気抵抗の情報から試料のナノ微細構造を復元することに成功しました。

電気抵抗は、物質の中での電子の流れやすさを表します。金属などの物質は物質固有の電気抵抗の値をもち、同じ大きさの金属はおおよそ同じ電気抵抗を示します。しかしながら、ナノメートル(1 mmの1000000分の1の長さ)というとても小さな世界では、量子力学(注1)が電子の運動を支配し、この状況は一変します。電子が波のように金属中を漂い、金属の表面や障害物に散乱された多くの波が干渉し、波の強め合い・弱め合いによって電気抵抗が大きく変化します(図1)。言い換えれば、電気抵抗に金属の形状や障害物の分布などのミクロな情報が含まれているのです。しかしながら、このような量子力学的な波の干渉は極めて複雑で、電気抵抗からミクロな情報を復元することは夢物語とされてきました。

今回、大門助教らは、量子力学的な干渉(注2)を解読するAIを開発し、電気抵抗の情報だけから金属内部の微細な構造を復元することに成功しました(図2)。近年の目覚ましい発展により、AIが人知を超える精度でデータを認識できることに着目し、量子干渉の解読に特化したAIを開発しました。開発したAIは一見ランダムに見える電気抵抗の変化に法則性を見出し、電気抵抗のデータだけから金属内部のミクロな構造、ひいては量子力学的な干渉の情報を引き出すことができます。

本研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に2022年6月8日(英国時間)に掲載されました。

図1 古典および量子力学的な描像における電子の電気伝導の模式図
金属中の電子は、古典的にはボールのような粒子であると考えられてきた。金属中ではこの粒子が転がるように流れることによって電気伝導が担われていると考えることができる。一方、低温の環境においては、電子の運動に量子力学的な性質が顔を出す。このとき電子は粒子ではなく波のように振る舞う。金属中では波が伝播するように広がり、散乱・干渉しながら進んでいく。さらには波の干渉の強め合い・弱め合いに応じて、電気抵抗が大きく変化する。電子の波は、外から与えられた磁場に応じてその位相を変化させる性質を持ち、磁場の大きさに応じて複雑な変化が現れる。電気抵抗の変化は、金属の形状や不純物分布などの構造を反映して、試料ごとに異なった変化を示すことから「量子指紋」と呼ばれる。今回の研究では、この複雑な量子指紋を解読し、金属内部の構造を復元することに成功した。

【用語解説】

(注1)量子力学
物質を構成する電子や陽子の運動を記述する理論体系。古典力学において電子は粒子として扱われるが、量子力学では粒子の性質と同時に波の性質も持ち合わせる。ナノメートル(1 mmの1000000分の1の長さ)程度の極めて小さな領域では、古典力学では説明できない量子力学的な物理現象が現れる。

(注2)量子力学的な干渉
量子力学的な性質が現れるナノメートルの領域では電子が波のように振る舞う。量子力学的な波が複数重なり合うことで生じる波の強め合い・弱め合いは量子力学的な干渉と呼ばれる。ナノメートルサイズの金属中では、量子力学的な干渉により電気抵抗が変化する。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学 材料科学高等研究所 広報戦略室
Tel:022-217-6146
Fax:022-217-5129
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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