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固溶体化が燃料デブリの「その後、」を決める 〜核燃料デブリの安全な保管や処理・処分に関わる新たな化学的知見〜

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 教授 桐島 陽
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 東京電力(株)福島第一原子力発電所(以下、「1F」)の事故後の炉内に存在する核燃料デブリ(注1)を安全に取り扱うためには、その化学的性質を知っておく必要がある。
  • 核燃料棒や配管、圧力容器等に含まれる元素が高温で反応すると、二酸化ウランの中にジルコニウムや鉄が溶け込んだ固体ができる(固溶体化)。
  • この固溶体化が起こると、もとの状態よりも水や海水に対して化学的に安定になり、放射能毒性の高いアクチノイド(注2)が溶け出し難くなった。

【概要】

1Fにおける燃料デブリ取り出しに先立ち、「固溶体化」という現象が燃料デブリの化学的な性質を決める鍵となることを突き止めました。東北大学多元物質科学研究所・桐島陽教授らの研究グループは日本原子力研究開発機構、京都大学と共同で、核燃料物質や燃料被覆管(注3)材料、さらに原子炉内の構造材として使われるステンレス鋼を原料とした模擬デブリを合成し、化学的な性質を研究しました。模擬デブリを分析したところ、核燃料の主成分である二酸化ウランに、被覆管に含まれるジルコニウムやステンレス鋼に含まれる鉄が溶け込んだ状態になっていました。これが「固溶体化」です。この模擬デブリを海水や純水に浸して化学反応を調べたところ、固溶体化が進行すると毒性の高い放射性物質であるアクチノイドの溶け出しが抑制されることが明らかになりました。これらの結果から、燃料デブリができる際に「固溶体化」が起こると、もとの二酸化ウランよりも化学的に安定になることが分かりました。これは、取り出し後の燃料デブリの保管や処理・処分を考える上で重要な知見となります。

本研究成果は、2022年6月6日付けで「Journal of Nuclear Materials」に掲載されました。

【用語解説】

注1.核燃料デブリ
核燃料が溶融し、原子炉内の様々な物質と融け合った生成物のこと。炉心溶融物、溶融燃料、コリウムなどとも呼ばれます。福島第一原子力発電所の燃料デブリでは、燃料を包む管に使われるジルコニウムの他に、原子炉の構造材であるステンレス鋼や制御用材料などとして利用されていた炭化ホウ素などの成分が含まれると推測されています。

注2. アクチノイド
周期表において、原子番号89のアクチニウム(Ac)から原子番号103のローレンシウム(Lr)までの15元素(Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lr)の総称です。

注3.被覆管
原子力発電で使う核燃料の主成分は二酸化ウランですが、原子炉内での使用に耐えるように、二酸化ウランのペレットはジルコニウムの合金で覆われています。この覆いが被覆管です。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 桐島 陽(きりしま あきら)
電話:022-217-5143
E-mail:kiri*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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