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ナノ磁石の磁気エネルギー地形の測量に成功 ~高性能疑似量子コンピューター開発に向けた数学的基盤を確立~

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 助教 金井 駿
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 確率的に振る舞う新規スピントロニクス素子を用いて、ナノメートルサイズの磁石(ナノ磁石)に関する未解決問題を実験で初めて検証
  • ナノ磁石の外場(磁場や電流)下の動作を記述する数式を解明
  • Society5.0注1)で活躍が期待される、省電力で複雑な計算問題を処理するスピントロニクス確率論的コンピューターや超低消費電力半導体の開発に向けた重要な基盤を確立

【概要】

東北大学電気通信研究所の舩津拓也博士前期課程学生(当時)、金井駿助教、深見俊輔教授、大野英男教授(現、総長)及び日本原子力研究開発機構の家田淳一研究主幹は、ナノ磁石の「磁気エネルギー地形」を世界で初めて実験的に測定することに成功しました。

電子の持つ電気的性質と磁気的性質(スピン)の同時利用に立脚する「スピントロニクス」注2)技術は、既に商品化されている超低消費電力の不揮発性メモリー注3)に加え、量子コンピューターや確率論的コンピューター注4)など、不確定性や確率性を積極的に利用した従来にないコンピューターを実現するための原理としても有望視されています。研究グループは、スピントロニクス確率論的コンピューターで用いられる超常磁性磁気トンネル接合注3)を用いて、磁場や電流による磁気エネルギーの変化を支配する「反転指数」と呼ぶ変数を実験で決定し、磁気エネルギーの磁場や電流依存性を正確に予測できる「磁気エネルギー地形」の実測に成功しました。超常磁性磁気トンネル接合素子を用いた確率論的コンピューターの研究開発を加速することは勿論のこと、ナノ磁石一般に成立する指数を決定したことで、不揮発性磁気トンネル接合を用いた磁気抵抗ランダムアクセスメモリー(MRAM)注3)の研究開発における特性評価への適用なども期待されます。加えて今回の観測結果は非線形解析理論の一種である「分岐理論」で統一的に理解できることも明らかになりました。これは今後の基礎数学・物理学理論研究を検証するプラットフォームとしてのスピントロニクス素子の利用可能性も示唆するものです。

本研究成果は2022年7月14日(英国時間)に英国の科学誌「Nature Communications」でオンライン公開されました。

図1 (a)机の上に載っている花瓶を指で押す様子。(b)花瓶の角度に対する位置エネルギーの例。(c)風が吹いた時の花瓶の角度に対する実効的なエネルギーの例。(d)エネルギー地形の一例

【用語解説】

注1) Society5.0
日本の「第5期科学技術基本計画」で政府が掲げた、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く。参考:https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

注2) スピントロニクス
電子の持つ電気的性質(電荷)と磁気的性質(スピン)を同時に利用することで発現する物理現象を明らかにし、工学的に利用することを目指す学術分野。スピンの持つ量子的性質はナノメートル(10のマイナス9乗メートル)のスケールで顕著に見られ、微細加工技術の進展とともに様々な関連現象が発見されてきた。例えば従来は不可能であった磁気的性質や磁化方向の電気的な検出や制御(スピントルク磁化反転)、電気伝導特性の磁場や磁化による制御などが可能となり、現在も様々な現象が発見され続けている。

注3) 磁気トンネル接合、不揮発性メモリー
磁気トンネル接合とは、二層の強磁性体でナノメートル程度の膜厚の絶縁体を挟んだ積層膜構造を指す。磁気トンネル接合を記憶素子として用いることでMRAMと呼ばれる不揮発性記憶素子が実現できる。情報の書き換えに上述のスピントルク磁化反転を利用するSTT-MRAMは、2018年頃から大手企業で量産が始まっている。

注4) 確率論的コンピューター
R.P.ファインマンが提唱したことで知られる、自然現象を効率良く再現するためのコンピューターの一つ。確率論的コンピューターでは短時間で出力信号が確率的に変化し、かつ各ビットを電気的に相関させられる確率ビット(Pビット)が情報処理の基本単位となる。同時に2つの不確定な情報の重ね合わせ状態を持ち、かつビット間でもつれあい(相関状態)を形成できる量子ビット(Qビット)とは本質的に異なるが、一定の類似性があることから、量子コンピューターと並んで非従来型のコンピューターとして注目されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
助教 金井 駿
電話 022-217-5555
E-mail skanai*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
電話 022-217-5420
E-mail riec-somu*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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