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光でワイル半金属の磁化とカイラリティを反転 ~トポロジカル物質の光制御に道を拓く~

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授  塚﨑敦
        准教授 藤原宏平
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • トポロジカル物質の一つである磁性ワイル半金属の磁化とカイラリティを光で反転させることに成功した。
  • エネルギー散逸を伴わない電流を生む異常ホール効果の符号を光で制御することを可能にした。
  • トポロジカル物質を用いた新たな光機能デバイスへの応用展開が期待される。

【概要】

JST戦略的創造研究推進事業において、東京大学低温科学研究センターの島野亮教授、東京大学大学院理学系研究科の吉川尚孝助教、小川和馬大学院生、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授、藤原宏平准教授の共同研究グループは、トポロジカル物質注1)の一種である磁性ワイル半金属注2)中の電子が持つカイラリティ注3)と磁化注4)を光によって反転させることに成功しました。

ワイル半金属の中の電子はあたかも質量ゼロの粒子であるワイル粒子注5)のように振る舞い、右巻き・左巻きで特徴付けられるカイラリティと呼ばれる自由度を持ちます。なかでも磁性を示すワイル半金属の中の電子は、外部から磁場を加えなくても内部に生じる擬似的な磁場を感じ、巨大な異常ホール効果注6)を示します。この異常ホール効果によってもたらされる電流はエネルギー散逸のない電流であることから、低消費電力で動作する次世代量子デバイスなど、様々な応用展開が期待されています。

今回発見した光による磁化・カイラリティの反転現象は、この異常ホール効果の符号の反転ももたらします。磁化の反転のために外から磁石などで外部磁場を加える必要がなく、光のみで強磁性ワイル半金属の磁化とカイラリティを制御することが可能になるため、ワイル半金属の性質を光で制御する新たな手法として注目されます。

本研究成果は、2022年12月20日午前10時(英国時間)に英国オンライン科学誌「Communications Physics」のオンライン版で公開されました。

図1 今回実証した光によるワイル粒子のカイライリティ反転の概念図。カゴメ格子を有する強磁性ワイル半金属Co3Sn2S2に円偏光の光を照射することで、強磁性の磁化とワイル粒子のカイラリティ(右巻き:ピンク、左巻き:緑)を繰り返し自在に反転することに成功した。

【用語解説】

注1)トポロジカル物質
物質中の電子状態が非自明な幾何学的特徴(トポロジー)を持つ物質群。

注2)ワイル半金属
電子の運動量に対する状態を記述するバンド構造において、運動量の三次元方向に線形のエネルギー分散を示し、バンドの交差点(ワイル点)が対となって現れるトポロジカル物質の一種。

注3)カイラリティ
物質中に現れるワイル粒子を特徴づける二値の量子数。例えば、スピンと運動量の相対関係を表し、平行の場合を右巻き、反平行の場合を左巻きと呼ぶ。

注4)磁化
単位体積当たりの磁気双極子モーメント。磁性体のN極とS極の方向と磁力の強さを表す量。

注5)ワイル粒子
1929年にドイツの理論物理学者ヘルマン・ワイルによって提唱された、相対論的電子を記述する方程式において質量をゼロとしたときに得られるフェルミ粒子。

注6)異常ホール効果
電気伝導を示す物質に電流を流しながら磁場を印加すると電流・磁場と垂直に起電力が生じる効果をホール効果と呼ぶ。物質が磁化を持つときに、外部から磁場を印加しなくても生じるホール効果を異常ホール効果と呼ぶ。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 
准教授 藤原 宏平
電話 022-215-2088
E-mail kohei.fujiwara*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 
情報企画室広報班
電話 022-215-2144
E-mail press.imr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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