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有機物質における量子スピン液体の機構解明に光 -パイ電子のゆらぎと絡み合った分子格子振動の特異な温度依存性を初めて観測-

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 佐々木孝彦
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 量子スピン液体1候補である分子性有機物質2において、量子スピン液体の発現機構を解明するカギとなる「6K異常」で、パイ電子3と結合した特定の分子格子振動4の減衰状態が大きく変化する様子を中性子非弾性散乱実験5で初めて発見

  • 減衰変化の起源としてBEDT-TTF分子の四量体化※6(図1)を提案。分子性有機物質のスピン液体機構の解明に期待

  • 世界的新型コロナウイルス感染症拡大下における日欧間の国際共同リモート実験による成果(図2*)

【概要】

一般財団法人総合科学研究機構中性子科学センターの松浦直人主任研究員、東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授、東京電機大学理工学部の中惇准教授、山梨大学大学院総合研究部の米山直樹教授らはドイツ・フランス研究グループとの国際共同研究により、量子スピン液体1の候補物質として長年研究されてきた分子性有機物質2κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3で、特定の分子格子振動4の減衰状態が6 Kを境に急激に変化することを世界で初めて発見しました(図1)。この研究では、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大下において、仏国のラウエ・ランジュバン研究所での中性子非弾性散乱実験が国際リモート実験として実施されました(図2*)。また、分子二量体(ダイマー)※6内の電荷の偏りを考慮した理論モデルとの比較により、6 K以下ではκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3内のBEDT-TTF分子が四量体※6を組むスピン一重項状態が形成されることが示唆されました(図3*)。この分子格子振動の特徴的な減衰は、他の電子誘電性を示す分子性有機物質においても、パイ電子3の秩序化に伴って変化することから、分子性有機導体ではパイ電子と特定の分子格子が強く結合していることを示しています。本成果は、分子性有機物質における分子格子と結合したパイ電子の物性研究を加速する成果です。

本研究成果は、米国の科学雑誌「Physical Review Research」版に1220日付でオンライン掲載されました。

図1 分子二量体状態(常磁性状態)と分子四量体状態(スピン一重項状態)の模式図。6Kにおいて分子二量体状態から分子四量体状態に遷移する。

【用語解説】

※1:量子スピン液体
電子スピンが規則的に極低温でも整列せず、量子的にもつれた多くの状態が重なりあった状態のことです。整列した状態を固体、バラバラの状態を気体とすれば、気体と固体の中間であることからスピン液体と呼ばれます。

※2:分子性有機物質
炭素、水素、窒素、硫黄などの軽元素からなる有機分子(図1)が集まってできた物質を分子性有機物質と呼びます。

※3:パイ電子
原子が2個ずつ電子を出し合って結びつく2重結合には、シグマ結合、パイ結合という2種類の結合があります。シグマ結合は結合力が強く、シグマ結合を担うシグマ電子は結合間に局在する一方、パイ結合の結合力は弱く、パイ結合をになうパイ電子は物質全体に広がっています。本研究に用いられた分子性有機物質κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3ではパイ電子が二量体中に閉じ込められていますが、二量体中のどちらかの分子に偏る運動の自由度が残ります。

※4:分子格子振動
分子や原子はバネでつながって振動しています。このような振動は波として物質中に伝わり、波は固有のエネルギー値をもちます。このような物質を構成する分子や格子に起こる波を格子振動といいます。

※5:中性子非弾性散乱
中性子を試料に照射し、中性子と試料とのエネルギーのやり取りを精密に測定することにより、格子やスピンの振動、揺らぎを調べることができます。

※6:二量体、四量体
二量体(四量体)とは2つ(4つ)の分子が分子間に働く力や構造的な配置により1つのユニットとしてまとまったものです。(図1)

*図2、図3については、下記の詳細をご覧ください。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所 
教授 佐々木 孝彦
TEL:022-215-2025
E-mail:takahiko.sasaki.d3*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所 
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
E-mail:press.imr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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