本文へ
ここから本文です

抗がん剤(チロシンキナーゼ阻害薬 TKIs)の重篤な副作用が発症する仕組みを解明 -炎症抑制によって抗がん剤TKIsの副作用が克服できる-

【本学研究者情報】

大学院薬学研究科 衛生化学分野 教授 松沢 厚
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 抗腫瘍チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs)(注1)は、ミトコンドリアの機能維持に重要な役割を果たしているSrcファミリーキナーゼ(mSFKs)(注2)までをも共通の標的(オフターゲット)とすることを発見しました。
  • TKIsによってmSFKsが阻害されることで、NLRP3インフラマソーム(注3)という炎症誘導装置が活性化されることを発見しました。
  • 本研究により、抗がん剤TKIsが炎症性副作用を発症させるメカニズムが解明されました。
  • 本研究成果は、抗がん剤TKIsの適切な使用の妨げになっている炎症性副作用の克服につながると期待されます。

【概要】
 現在までに、がん治療薬として数多くのTKIsが開発されています。これらTKIsは分子標的治療薬(注4)に分類され、少ない副作用で高い治療効果が得られると期待されています。しかし実際は、ほとんど全てのTKIs抗がん薬が炎症を起点とした重篤な副作用を惹起することが問題となっています。

 東北大学大学院薬学研究科の関口雄斗(大学院生)、高野紗彩(薬学部生)、野口拓也准教授、松沢厚教授らの研究グループは、抗がん剤TKIsがミトコンドリアに局在するmSFKsを共通の標的(オフターゲット)とすることを発見しました。mSFKsはミトコンドリアの機能維持に重要な役割を果たしていることから、TKIsの副作用によるmSFKsの阻害はミトコンドリアの機能障害を起こします。その結果、細胞内にあるNLRP3インフラマソームという分子複合体が強力に活性化され、炎症が誘導されます。本研究は、抗がん剤TKIsによる炎症誘導メカニズムに関する新知見であり、TKIsによる炎症性性副作用の克服につながることが期待されます。

 本研究の成果は、2023年2月6日に米国科学雑誌 The Journal of Immunology に掲載されました。

図: チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs)よって引き起こされる炎症誘導機構

【用語解説】

(注1)抗腫瘍チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs: Tyrosine kinase inhibitors
がんの発症・進展に関与するチロシンキナーゼを標的とした分子標的治療薬の総称。

(注2)Srcファミリーキナーゼ(mSFKs: mitochondrial Src family kinases)
細胞増殖等に関与する非受容体型チロシンキナーゼファミリーの一つ。一部のSrcファミリーキナーゼはミトコンドリアに局在し、ミトコンドリアの機能維持に重要な役割を果たすことが知られている。

(注3)NLRP3インフラマソーム
NLRP3と呼ばれるタンパク質を核として細胞内に形成されるタンパク質複合体。病原微生物の感染や細胞内のダメージをNLRP3が感知することによって形成が促進される。形成されたNLRP3インフラマソームは、インターロイキン-1βの分泌やピロトーシスと呼ばれる炎症性細胞死を促進し、強力に炎症を誘導する。

(注4)分子標的治療薬
病気の原因となっている特定の分子に対してのみ作用するように設計された治療薬。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 
教授 松沢 厚
TEL 022-795-6827
E-mail: atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)


(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 
総務係
TEL 022-795-6801
E-mail: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ