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電子源からの電子放出量を7倍に増やす表面コーティング技術を開発 ─電顕や放射光施設の高性能化に期待─

【発表のポイント】

  • 電子源の材料である六ホウ化ランタン(LaB6)に六方晶窒化ホウ素(hBN)をコーティングすることで仕事関数(注1)が2.2 eVから1.9 eVに低下し、電子放出量が増加することを発見しました。
  • hBNコーティングによってhBNとLaB6の界面に「外向きの双極子モーメント(注2)」が形成され、これにより仕事関数が低下することを解明しました。
  • 本研究成果は高効率な電子源の作製、ひいては電子顕微鏡や電子線描画装置、放射光施設の高性能化につながると期待されます。

【概要】

電子を空間中に放出するための電子源は、電子顕微鏡や半導体製造のための電子線描画装置、放射光施設等で利用される加速器などに利用されています。電子源の材料として現在は仕事関数の低い六ホウ化ランタン(LaB6)が広く使われています。これよりも仕事関数の低い材料を開発できればより多くの電子放出が可能となり、電子源の高性能化につながります。

日本大学生産工学部の小川修一准教授(研究当時は東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター兼 多元物質科学研究所)らの研究グループとロスアラモス国立研究所(米国)、北京理工大学(中国)、日本原子力研究開発機構からなる共同研究チームは、光電子顕微鏡(注3)と光電子分光法(注4)、および第一原理計算(注5)によってLaB6表面への六方晶系窒化ホウ素(hBN)コーティングによる仕事関数低下を発見し、そのメカニズムを解明しました。本成果は電子顕微鏡や放射光を使った物質材料研究を側面からサポートし、より優れた材料開発に貢献すると期待されます。

本研究成果は2023年4月3日に米国物理学協会の応用物理系専門誌Applied Physics Lettersにオンライン掲載され、Editor's Pickにも選出されました。

図1. グラフェン(Gr)およびhBNでコーティングされたLaB6表面の光電子顕微鏡像(PEEM)像と熱電子顕微鏡(TEEM)像。画像の明るい場所ほど電子がたくさん放出されていることを示す。(白いスポットはゴミなど表面に吸着した異物)

【用語解説】

注1. 仕事関数:固体内にある電子を、固体の外、正確には真空中に取り出すために必要な最小限のエネルギーの大きさ。

注2. 双極子モーメント:正の電荷と負の電荷がペアになったものを双極子といい、負から正への向きを持ったベクトルを双極子モーメントという。電子は負電荷を持つため双極子モーメントの向き(正電荷の方向)に引っ張られる。この双極子モーメントのアシストで固体表面から放出されやすくなる。

注3. 光電子顕微鏡、熱電子顕微鏡:試料への光照射で放出される「光電子」や高温試料から放出される「熱電子」を用いて像を得る顕微鏡。特に光電子顕微鏡は光電子分光法と組み合わせることで化学組成と表面形態を同時に観察する手法として、近年多くの放射光施設にも導入が進んでいる。

注4. 光電子分光法:固体にX線などの電磁波をあて、外に飛び出した電子(光電子)の速度を測定して固体の電子状態を調べる方法。得られたスペクトルを解析して原子や分子の結合状態を知ることができる。

注5. 第一原理計算:実験から求められる定数を使わずに、量子力学の基礎となるシュレディンガー方程式を近似的に解いて物質の持つ性質を明らかにする計算手法のこと。実験的な仮定が入っていないため、近似をうまく工夫することによって理想状態での物性値を求めることができる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
教授 虻川 匡司(あぶかわ ただし)
TEL: 022-217-5364
E-mail: abukawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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