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超硫黄分子が細胞内凝集体を解体して細胞死を抑制する仕組みを発見 -神経変性疾患の治療における超硫黄分子の有用性を示唆-

【本学研究者情報】

薬学研究科 衛生化学分野
教授 松沢厚
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 超硫黄分子注1はタンパク質凝集体の蓄積(神経変性疾患等の原因)を防ぎ、パータナトス注2とよばれる新規プログラム細胞死を抑制することを見出しました。
  • 凝集体の分解に重要なシャペロンタンパク質注3であるHSPファミリー分子注4が超硫黄分子により転写誘導されることを解明しました。
  • 超硫黄分子はHSP90(HSF1の抑制因子)という分子のシステイン残基を修飾することで、ストレス応答転写因子HSF1注5を活性化し、HSPファミリー分子の転写誘導を引き起こすことが明らかになりました。
  • 神経変性疾患の治療における超硫黄分子の有用性を示しました。

【概要】

細胞内に蓄積した変性タンパク質の凝集体は、「パータナトス」とよばれる非典型的なプログラム細胞死を惹起し、神経変性疾患の原因となります。そのため、パータナトス抑制因子の発見は新たな治療法開発に繋がります。一方近年、様々なストレスから細胞を保護する物質として、「超硫黄分子」が注目されています。超硫黄分子は細胞死を抑制し細胞を保護することが報告されていますが、そのメカニズムには不明な点が多く残されています。

 東北大学大学院薬学研究科大学院生の山田裕太郎、野口拓也准教授、松沢厚教授らの研究グループは、超硫黄分子が神経変性疾患の原因となるパータナトスの強力な抑制剤となることを見出しました。超硫黄分子は、HSP90(HSF1の抑制因子)という分子のシステイン残基の修飾を介してストレス応答転写因子HSF1を活性化し、さまざまなシャペロン分子を誘導します。その結果、タンパク質凝集体の分解が促進され、パータナトスが抑制されます。本研究は超硫黄分子によるパータナトス抑制効果に関する新知見であり、超硫黄分子が神経変性疾患の新たな治療ターゲットとなることが期待されます。

 本研究の成果は、2023年4月13日に科学雑誌 The Journal of Biological Chemistryに掲載されました。

図1. 超硫黄供与体による凝集体およびパータナトス抑制機構

超硫黄供与体(超硫黄ドナー)はHSP90のCys521の修飾を介してHSF1との解離を惹起する。解離したHSF1の核移行・活性化により、HSP70などのシャペロンタンパク質が強力に誘導される。HSP70は、酸化ストレスによって蓄積される変性タンパク質の凝集を防ぎ、プロテアソーム分解へと導くことでパータナトスを抑制し、細胞を生存へと導く。

【用語解説】

注1 超硫黄分子
硫黄原子が複数連なった分子の総称。生体内ではアミノ酸であるシステインや、タンパク質や抗酸化物質グルタチオンのシステイン残基上に豊富に存在する。通常のシステインに比べ反応性が高く、シグナル伝達や抗酸化反応に影響を与えることが知られている。

注2 パータナトス
DNA損傷応答因子PARP-1の過剰活性化によって引き起こされるプログラム細胞死。PARP-1の過剰活性化は特に神経細胞で見られており、神経変性疾患の原因の一つであると考えられている。

注3 シャペロンタンパク質
ストレスなどによる細胞内環境の変化によって変性してしまったタンパク質を正しい折りたたみへと導き、機能的な状態に戻すタンパク質の総称。重度に変性したタンパク質に対しては凝集化しないように結合し、分解へと導く機能も有する。

注4 HSPファミリー分子 (Heat Shock Protein family)
熱ショックにより転写誘導されるシャペロンタンパク質の総称。熱ショックだけでなく酸化ストレスなどの幅広いストレスに応答し、タンパク質の品質管理を行う。特に、ストレス時にはHSP70が中心となってタンパク質の品質管理に寄与する。

注5 HSF1 (Heat Shock Factor 1)
HSPファミリータンパク質の主要な転写因子。定常状態においてはHSPファミリータンパク質の一つであるHSP90と結合し、活性が抑制されている。細胞が熱ショックをはじめとする様々なストレスに曝されると、HSP90とHSF1の結合が解離し、HSF1による転写誘導が可能となる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 松沢厚
TEL: 022-795-6827
E-mail: atsushi.matsuzawa.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 総務係
TEL: 022-795-6801
E-mail: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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