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未来の行動のための視覚処理促進を実現する脳機能 手が移動する前に手の移動先に向けられる視覚的注意の発見

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 教授 塩入諭
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 手を移動させるときの脳波を計測したところ、意識的に注意を向けること(トップダウン注意(注1))なく、移動先の視覚処理を促進すること(注意効果)を示しました。
  • 手の移動先の注意効果は、移動のゴール付近で顕著であり、周囲に広く広がるトップダウン注意と異なることを示しました。
  • 本成果はトップダウン注意と異なる機能を持ち異なる脳処理に依存した、手の移動先に向けられる注意が存在することを意味します。これは手による効果的な操作に貢献していると考えられます。

【概要】

脳の注意効果には意識して向けるトップダウン注意と、明るい対象など目立つ刺激に向けられるボトムアップ注意(注2)の2つがあることが知られています。また近年、手の周りなどの視覚刺激に対する身体性注意という注意効果があることも指摘されています。手の周りに視覚的注意を向けることは、手で様々な操作を行うために有効であり、手が動くときはそれに先行した注意効果があるはずです。

これまで指差しが求められる実験において、指差しをする以前に注意効果が生じることが報告されています。しかしその機能がトップダウン注意であるかそれとは異なる処理過程によるのかは不明でした。

東北大学の研究グループは、手の運動のゴール位置と異なる場所にトップダウン注意を向けた場合にも、ゴール位置への注意効果があることを脳波計測によって明らかにしました。手の運動のゴール地点とトップダウン注意位置は大きく異なることから、両者が異なるメカニズムによることがわかりました(図1)。したがって手の運動のゴール位置には、意識的に向けるトップダウン注意とは別の注意メカニズムが働くことがわかります。この効果は手が見えない条件でも得られることから、手の運動を制御する脳処理の過程からの視覚処理への影響と考えることができます。

本成果は2023年5月8日、神経科学分野の国際誌Journal of Cognitive Neuroscienceに掲載されました。

図1 人は日常生活で様々な作業を同時に行うことができます。そのためにはそれぞれの作業に対して必要な注意を向けていると考えられます。例えばPC作業中に飲み物を取るとき、手に取るカップに注意が向けられると考えられますが、それは画面に注意を向けたままでも可能かもしれません。本研究では画面に向けられた注意とは別に、手による操作対象に向けられる注意があり、しかもそれは手が動く前から働くことを明らかにしました。画面での作業のために向ける注意、トップダウン注意は、注意位置の周りに広がる(右図A)のに対して、手の動きのゴールの注意は、その周囲に限定される(右図B)ことも明らかにしたことから、2つの異なる注意プロセスがあると考えられます。

【用語解説】

注1. トップダウン注意
視線を正面に向けながら視野の片隅でものをみることができます。そのときには視線と独立に意識的に注意を向ける対象を決め、その位置での情報処理を選択的に促進していると考えられています。視線を固定していても、注意を向けた位置に提示された視覚情報はそれ以外の位置に提示された場合に比べて、処理が早く正確であり、また見落とすことが少ないことが知られています。

注2. ボトムアップ注意
視野内に突然光るものが現れた場合に、そこに注意が引きつけられます。そのような場合には、視線も向けられますが、視線が固定されている場合でもその効果があることは実験的に示されています。また、視線移動がある場合も注意効果はそれに先立って生じていることもわかっています。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
教授 塩入諭
TEL: 022-217-5468
E-mail: satoshi.shioiri.b5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 
総務係
TEL: 022-217-5420
E-mail: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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