本文へ
ここから本文です

Muse細胞を用いた脳梗塞患者に対する幹細胞治療の開発 -探索的治験による安全性および有効性を確認-

【本学研究者情報】

〇大学院医工学研究科神経外科先端治療開発学分野 教授 新妻邦泰
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 超高齢社会において増加の一途をたどっている脳梗塞が起きると後遺症が残ることが多く、寝たきりや要介護の主要な原因となっています。
  • 急性期治療後の亜急性期からの治療では、リハビリテーションが重要になりますが、神経機能の回復には限界もあります。
  • 亜急性期脳梗塞の患者に対してMuse細胞(注1)製剤を投与する治験を実施した結果、臨床試験を進めるための安全性が確認され、上肢の機能回復が早期から見られるなど有効性を示唆する結果が得られました。

【概要】

超高齢社会を迎えた現在、脳梗塞患者数は増加の一途をたどっています。脳は再生能が乏しいため、半数以上の患者は後遺症を抱えることになります。そのため、脳自体を再生させる可能性がある幹細胞治療に期待が集まっています。

東北大学大学院医工学研究科 新妻邦泰教授、同大学院医学系研究科 遠藤英徳教授らの研究グループは、標準的な急性期治療を行った後でも身体機能障害を有する、脳梗塞発症後14日から28日以内の患者35名を対象にMuse細胞製剤の臨床試験を東北大学病院で実施しました。

その結果、主要評価項目であるMuse細胞製剤投与後52週までの安全性について、臨床試験を進めるうえで問題となる重要な副作用は認められませんでした。Muse細胞製剤またはプラセボ(偽薬)を投与する前は、ほとんどの患者さんがmodified Rankin Scale(神経運動機能に異常を来す疾患の重症度を評価するための尺度:以下mRS)(注2)が4(歩行に介助が必要なレベル)または5(寝たきりに近いレベル)でしたが、投与後12週後にプラセボ群では10%がmRS 0~2(障害が全くない~日常生活自立レベル)に達したのみであったのに対し、Muse細胞製剤投与群では40%がmRS 0~2に達しました。特に上肢運動機能回復が大きく、Muse細胞投与群では4週から52週までの期間、プラセボ投与群との間に統計学的有意差(P < 0.01)を持った改善が見られました。

本研究成果は、2023年9月27日付けで国際学術誌Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolismに掲載されました。

図1. 上側肢のFMMS(Fugl-Meyer Motor Scale)スコアの時間推移。

【用語解説】

注1. Muse細胞(Multilineage-differentiating Stress Enduring Cells)
2010年に東北大学の出澤真理教授のグループによって発見された。骨髄、末梢血、あらゆる臓器の結合組織に存在し、腫瘍化のリスクが低い自然の多能性幹細胞。遺伝子導入による多能性の獲得や、投与前の分化誘導操作を必要としません。Muse細胞を静脈内に点滴投与するだけで傷害組織に集積し、その組織に応じた細胞に自発的に分化して組織を修復する。

注2. mRS (Modified Rankin Scale)
脳血管障害や神経疾患後の生活自立度を表す最も一般的な尺度。
mRS 0: まったく症状がない
mRS 1: 症候はあっても明らかな障害無し。日常の務めや活動は可能。
mRS 2: 軽度の障害。日常生活は自立している。
mRS 3: 中等度の障害。何らかの介助を要するが、歩行は介助なしに可能。
mRS 4: 中等度から重度の障害。歩行や身体的要求に介助を要する。
mRS 5: 重度の障害。寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを要する。
mRS 6: 死亡。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医工学研究科神経外科先端治療開発学分野
教授 新妻 邦泰
TEL: 022-717-7230
Email: niizuma*nsg.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ