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AI処理を高速・超低電力で行う新技術を開発 ~現行AIの計算方式に対応したスピントロニクス『P』コンピュータの動作を実証~

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 教授 深見俊輔
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 高速・超低電力での演算が可能なスピントロニクス(注1技術を用いた確率論的(『P』)コンピュータ(注2で人工知能(AI)処理を行う新技術を開発
  • 現行AIで利用されている「順伝播型ニューラルネットワーク」の動作を実証
  • 病気の原因の推定、気象予測などを超低電力で行う技術への応用が期待

【概要】

人工知能(AI)やデジタル社会の進展に伴い、コンピュータで処理するタスクは複雑かつ多様化しています。この要請に応えるため、各用途に特化した新概念コンピュータの研究開発が活性化しています。

スピントロニクス確率論的(『P』)コンピュータは確率性を伴う複雑な問題を省電力で超高速に処理できると期待される新概念コンピュータの一種です。東北大学とカリフォルニア大学サンタバーバラ校(アメリカ)のチームは以前から共同研究を行っており、昨年実験結果に基づき汎用的なコンピュータと比べて演算速度を約5桁向上、消費電力を約1桁低減できることを示していました。一方で昨今急成長するAI技術への応用に向けては、現行AIの大部分が採用する計算方式である順伝播型ニューラルネットワーク[図1]に整合した技術の開発が求められていました。

今回研究チームはスピントロニクスPコンピュータにて順伝播型ニューラルネットワークに基づく計算を行うための新技術を開発し、行動履歴や生活習慣と病気の発症の因果関係を確率的に解析するAI計算のデモ実験などに成功しました。また併せて、これまでのPコンピュータの動作速度を3桁向上する新素子技術を開発しました。

AIの更なる発展に向けてはコンピュータの演算能力の向上と省エネ化の両立が喫緊の課題となっています。スピントロニクスPコンピュータはまさにこの要請に応えるものであり、本研究にて現行AIと高い整合性を有した技術が確立されたことから、今後社会実装に向けた研究開発がより一層進展するものと期待されます。

本成果は、2023年12月9-13日(米国時間)に米サンフランシスコで開催される学術会議「International Electron Devices Meeting: IEDM」で発表されました。

図2. 作製したスピントロニクスPコンピュータの原理実証システムの写真。左側は確率動作スピントロニクス素子からなるPビットのユニットであり、右側はプログラマブル半導体回路(FPGA)。

【用語解説】

注1. スピントロニクス
電子の持つ電気的性質(電荷)と磁気的性質(スピン)を同時に利用することで発現する物理現象を明らかにし、工学的に利用することを目指す学術分野。例えば従来は不可能であった磁気的性質や磁化方向の電気的な検出や制御(スピントルク磁化反転)、電気伝導特性の磁場や磁化による制御(磁気抵抗効果)などが可能となり、現在も様々な現象が発見され続けている。

注2. 確率論的(『P』)コンピュータ、確率ビット(Pビット)
確率ビット(Pビット)とは、短時間で出力信号が0と1の間で確率的に変化し、かつ各ビットを電気的に相関させられる情報処理の基本単位。確率論的コンピュータ(Pコンピュータ)はPビットを用いて演算を行うコンピュータ。
Pビットは0と1の重ね合わせ状態を持ち、かつビット間でもつれあい(相関状態)を形成できる量子ビット(Qビット)とは本質的に異なるが一定の類似性があることから、確率論的コンピュータは量子コンピュータと並んで新概念コンピュータの一つとして注目されている。1981年にリチャード・ファインマンが行った講演において、量子コンピュータと並んで、確率的な現象を効率的に計算する仕組みとして紹介されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
教授 深見 俊輔
TEL: 022-217-5555
E-mail: s-fukami*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(兼)東北大学先端スピントロニクス研究開発センター (CSIS)
(兼)東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター (CIES)
(兼)東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
(兼)稲盛科学研究機構 (InaRIS)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
E-mail: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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