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乳がんに対するがん特異的抗体開発に世界で初めて成功 〜副作用のない抗体医薬品開発に期待〜

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科分子薬理学分野 教授 加藤幸成
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(HER2)(注1を標的とする抗体医薬(注2HER2-CasMab(注3)を作製しました。
  • HER2-CasMabは、がん細胞だけに反応し、正常の上皮細胞には全く反応しませんでした。
  • HER2-CasMabは乳がんに対し、広く使用されているトラスツズマブと同等の抗腫瘍効果を示したことから、乳がんに対する副作用のない治療法の開発につながると期待されます。

【概要】

細胞の増殖に関与するとされるタンパクHER2に対する抗体医薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン®(注4は世界中で使用されており、乳がんや胃がんの患者で高い効果を示しています。ただし、正常細胞に対しても高い反応性を示すため、特に心臓に対する副作用が報告されています。そのため、HER2に対するがん細胞を特異的に攻撃する抗体医薬の開発が臨床現場で求められていました。

東北大学大学院医学系研究科分子薬理学分野の加藤幸成教授らの研究グループは、がん細胞を特異的に攻撃する抗体医薬(CasMab)の開発を行ってきました。本研究では新たに、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(HER2)を標的とするHER2-CasMabを作製しました。今回開発したHER2-CasMabは、がん細胞だけに反応し、正常の上皮細胞には全く反応しませんでした。さらに、HER2-CasMabは乳がんに対し、トラスツズマブと同等の抗腫瘍効果を示したことから、乳がんに対する副作用のない治療法の開発が期待されます。

本研究結果は、2024年2月5日、科学誌International Journal of Molecular Sciences に掲載されました。

図1. HER2-CasMabは正常細胞には全く反応しない(免疫組織染色)

【用語解説】

注1. ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(HER2;ハーツー):細胞の増殖に関与するとされるタンパク質のひとつ。正常な細胞にも存在し、細胞の増殖調節能を担っていると考えられるが、過剰に発現したり、活性化したりすることで細胞の増殖制御ができなくなりがん化する。HER2陽性率が高い腫瘍としては、乳がんや胃がんなどがある。

注2. 抗体医薬:抗体とは、リンパ球のうち、B細胞が産生するタンパク質で、特定の分子(抗原)を認識して結合する。血液中や体液中に存在し、細菌やウイルスなどの微生物に結合すると、白血球による貪食が起こる。がん細胞に結合しがん細胞を殺す働きもあり、多くの抗体医薬品が臨床で使用されている。

注3. CasMab(キャスマブ):Cancer-specific monoclonal antibody(がん特異的抗体)の略で、2014年に東北大学の本研究室が世界で初めて発表した(商標:第5690178号)。がん細胞と正常細胞に発現する膜タンパク質のアミノ酸配列が100%同一であっても、がん細胞に特徴的な構造の違いを認識する。

注4. トラスツズマブ(ハーセプチン®):HER2に対する抗体医薬のひとつ。HER2陽性の乳がんは、以前は難治性の乳がんとされていたが、トラスツズマブが導入され、治療成績は大幅に改善された。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科分子薬理学分野
教授 加藤 幸成(かとう ゆきなり)
TEL 022-717-8207
Email: yukinari.kato.e6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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