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極値統計学でモータータンパク質の物性評価 ――キネシンとダイニンの輸送速度の上限に相違を発見――

【発表のポイント】

  • 生きた線虫個体内でのモータータンパク質のキネシンとダイニンについて、極値統計解析により、既存手法ではわからなかった輸送速度の上限に相違があることを発見しました。
  • 細胞に負荷をかけない蛍光イメージングと極値統計解析を組み合わせる本手法は、ナノバイオロジーのデータ解析に有用であることを示しました。

  • 本手法を応用することで、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などモータータンパク質の変異に関連する神経変性疾患の分子メカニズムの解明への貢献が期待されます。

【概要】

 東京大学物性研究所の林久美子教授と東北大学大学院工学研究科の直井拓磨氏(研究当時、博士前期課程在籍。現在、修了)は、細胞内の物資輸送を担うモータータンパク質であるキネシンとダイニンにおける力学性質の違いを示しました。

 これまで細胞力学的性質の計測では、光ピンセットという細胞に対し負荷の大きい手法を用いていましたが、負荷に敏感な特性に対しては、自然界と比較し大きくデータが変容してしまいます。今回、生きた線虫個体に対し、細胞に負荷を加えない蛍光イメージング(注1)を用いて、自然界に近い環境で輸送速度を計測し、平均値からの外れ値に注目する極値統計解析を行いました。その結果、キネシンは輸送速度に上限があるが、ダイニンは速度の上限が存在しない別の力学性質を持っていることがわかりました。

 細胞内の物流を担うモータータンパク質の変異は物流障害を引き起こし、ヒト疾患とも深く関連します。開発した極値統計学による解析を応用することで、モータータンパク質の輸送異常に関連するヒト神経疾患の分子メカニズム解明に役立つことが期待されます。

 本成果は、英国科学雑誌『Communications Physics』の 213 日付オンライン版に掲載されました。

モータータンパク質「ダイニン」と「キネシン」の蛍光イメージング模式図(上)および両タンパク質の輸送速度の極値統計解析結果(下)

【用語解説】

注1. 蛍光イメージング:
観察対象に蛍光物質を付け、蛍光物質を光らせることで対象を観察する顕微鏡観察法。タンパク質や分子で混み合った細胞内で、観察対象のみを観察することに適している。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

東北大学大学院工学研究科 情報広報室
Tel:022-795-5898
Email:eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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