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様々なトポロジカル磁気構造の作り分けに成功 ─超低消費電力電子素子の実現に一歩─

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 助教 土肥昂尭
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • トポロジカル磁気構造(注 1, 2と呼ばれる磁気渦は、高い熱安定性が期待され、革新的情報処理技術への応用に向けた研究が進められています。
  • 反強磁性(注3的に結合したメロン、アンチメロン、バイメロンと呼ばれる新奇なトポロジカル磁気構造(注2を実現し、制御する方法を確立しました。
  • 反強磁性トポロジカル磁気構造を用いた革新的情報デバイスの実現に向け、重要な知見となる成果です。

【概要】

近年、ナノメートルスケールにおいて極めて高い安定性を持つと期待されるトポロジカル磁気構造(注 1, 2が革新的情報処理技術への応用に向けて研究されています。その代表例に磁気スキルミオン(図1左側)があります。この磁気構造をうまく活用することができれば、従来の電子素子に比べて桁違いに消費電力を下がられると期待されています。

これまでに磁気スキルミオンを超えた第二、第三のトポロジカル磁気構造の実現が相次いで報告されています。しかしながら、どのような材料系で磁気スキルミオン以外の反強磁性トポロジカル磁気構造が安定的に実現できるのか明らかにされていませんでした。

今回、東北大学電気通信研究所の土肥昂尭助教、独マインツ大学のMathias Kläui(マティアス クラウィ)教授からなる日独共同研究チームは、二枚の強磁性層を極薄の非磁性層を介して人工的に反強磁性的に結合させた人工反強磁性体を用いて、磁気スキルミオンとは異なる反強磁性トポロジカル磁気構造の実現を試みました。強磁性層を系統的に変化させながら観測したところ、様々なトポロジカル磁気構造:メロン、アンチメロン、バイメロンを作り分けることに成功しました。

今回得られた知見を土台にして、様々な反強磁性トポロジカル磁気構造を用いる革新的情報デバイスの実現に向けた研究開発の進展が期待されます。

本研究成果は、2024年2月26日(英国時間)に学術誌Nature Communicationsに掲載されました。

図1. 反強磁性スキルミオンと反強磁性メロン・アンチメロンのスピン構造。矢印がスピンの方向を示している。スキルミオンでは、中心で上(下)向きスピンを持ち、外側に行くにつれそのスピンが回転し、最も外側の部分では下(上)向きスピン(180度回転)を示す。一方でメロンとアンチメロンでは、中心でのスピンの向きは、スキルミオンと同じだが、最も外側では、90度回転したスピンで終端される。また本研究で用いた人工反強磁性系では、上下の磁性層がお互い逆方向に結合し、"反"強磁性構造を形成する。

【用語解説】

注1. トポロジー
何らかの系のカタチを連続変形の観点から分類する幾何学。良く知られた例としてドーナツとコップの例が挙げられる。ドーナツとコップは同じ穴の数を有しており、連続変形によってお互いに移ることができるが、球のような穴の数が異なる物体には移り変わることができない。ここで、穴の数はトポロジカル数と呼ばれ、この数が異なる系には、移り変わることができないため、ある種の安定性を意味している。磁性体では、磁気モーメント(図1におけるそれぞれの矢印)が球を何回覆うかという指標がトポロジカル数となる。

注2. トポロジカル磁気構造(メロン、アンチメロン、バイメロン)
トポロジカル数が有限なものをトポロジカル磁気構造と呼ぶ。代表例として良く知られた磁気スキルミオンはトポロジカル数が1をとるのに対し、メロンは±1/2、アンチメロンは∓1/2という値をもつ。バイメロンは、メロンもしくはアンチメロンが結合することにより、再び1となる。メロンの英語表記は、フルーツのmelonではなく、meronであり、ギリシャ語で "部分"、"分数" の意味を持つ"μεροσ"にちなんで名付けられた。

注3. 反強磁性
隣り合う磁気スピンがそれぞれ反対方向を向いて整列し、全体として磁気モーメントを持たない磁性。強磁性体と接合することで強磁性体の磁気的な性質を大きく変化させる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 電気通信研究所
助教 土肥昂尭
TEL: 022-217-5555
Email: tdohi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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