本文へ
ここから本文です

高血糖下の細胞研究は酸素濃度に要注意 血管恒常性を左右する血管内皮細胞の環境応答の解明

【本学研究者情報】

流体科学研究所 准教授 船本健一
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 血管の内側(内腔を覆う血管内皮細胞(注1は、周囲の環境の変化に対し、隣り合う細胞と相互に影響を及ぼしながら移動(遊走)することで血管恒常性(注2を維持しています。
  • 細胞周囲のグルコースと酸素は、細胞の代謝を介して血管内皮細胞の集団的な遊走に影響を与えることと、低酸素環境では高グルコースによる遊走の増加を抑制することを明らかにしました。
  • 本研究成果は、血管恒常性の維持に関する重要な知見であり、将来的には血管疾患の発症メカニズムの解明や、その予防法の創成につながるものと期待されます。

【概要】

血管内腔を覆う血管内皮細胞は、環境因子の変化を受けて集団的に遊走することで血管恒常性を維持していますが、そのメカニズムの詳細は不明です。

東北大学流体科学研究所の船本健一准教授、曽根一輝氏(大学院医工学研究科)、徳島大学の立川正憲教授、東京農工大学の吉野大輔准教授らの共同研究チームは、血管内皮細胞単層の周囲のグルコース濃度と酸素濃度が細胞の動態に与える影響と、その変化のメカニズムについて研究しました。

様々なグルコース濃度に調整した細胞培養液と、細胞周囲の酸素濃度を厳密かつ即時的に制御することができるマイクロ流体デバイス(注3を用いた細胞実験により、血管内皮細胞の遊走は高グルコース環境では増加する一方、低酸素環境(負荷)を同時に与えると抑制されることを明らかにしました。また、この細胞動態の変化には、細胞内のATP産生が関与していることを示しました。これらの発見は、血管内皮細胞周囲の環境因子の変化に対して、血管恒常性が維持されるメカニズムの解明に向けた重要な知見です。

本成果は3月2日(現地時間)付けでScientific Reportsに掲載されました。

図1. マイクロ流体デバイスを用いた実験システム

【用語解説】

注1. 血管内皮細胞:血管は内側から、内膜、中膜、外膜と区分され、血管内皮細胞は内膜を単層で構成する細胞である。血管内皮細胞は常に血流に接しており、血液と生体組織間の栄養や不要物などの物質交換に深く関与している。

注2. 血管恒常性:外部から受ける刺激や環境の変化に対して、身体の状態を一定に保つことを生体恒常性といい、特に血管の正常な状態を維持することを血管恒常性という。

注3. マイクロ流体デバイス:マイクロサイズの流路を有し、その流路内部の流体を制御しながら細胞培養を行うことができるデバイス。一般的に透明でガス透過性の高いポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いて作製される。近年、心臓や肺などの臓器の機能を生体外に再現する臓器機能チップ(Organ-on-a-chip)と呼ばれる様々なデバイスが開発され、各臓器内の細胞群の動態を解明する研究に用いられている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学流体科学研究所
准教授 船本 健一(ふなもと けんいち)
TEL: 022-217-5878
E-mail: funamoto*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学流体科学研究所
広報戦略室
TEL: 022-217-5873
E-mail: ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03 sdgs09

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ