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エピゲノム変化が脂肪のエネルギー消費を促進し肥満を抑制する -肥満や糖尿病の発症機序解明に期待-

【本学研究者情報】

〇大学院医学系研究科分子代謝生理学分野 教授 酒井寿郎
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • マウスにおいては、エピゲノム(注1による適切な調節によってエネルギーが適正に消費され、肥満・糖尿病を防いでいることを明らかにしました。
  • エピゲノムの調節を破綻させると、エネルギーを消費するミトコンドリア(注2を増やすことができず、個体のエネルギー消費が低下しました。
  • ヒトの脂肪組織でもエピゲノム変化を司る酵素が少ないと肥満度や血中コレステロール値が高いことがわかりました。

【概要】

脂肪組織にはいくつかの種類があります。白色脂肪組織(WAT)はエネルギーの貯蔵や供給を行うのに対し、褐色脂肪組織(BAT)はエネルギーの燃焼に重要なミトコンドリアが多く、熱を生み出す組織として知られています。個体が寒冷にさらされると、褐色脂肪細胞に似たベージュ脂肪細胞(注3がWATの中に出現し、寒冷への適応を可能にします。褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は脂肪を燃焼するため、肥満や糖尿病の治療標的として注目を集めています。

東北大学大学院医学系研究科の酒井寿郎教授らの研究グループは、マウスにおいてエピゲノムの書き換えを行う酵素(注4の活性を欠失させると、WATでミトコンドリア増生(注5が起こらなくなり、ベージュ脂肪細胞が作成されなくなることを明らかにしました。さらにこのマウスは年を取るにつれて体重が増加し、代謝異常が起きました。またヒトの皮下脂肪のエピゲノム書き換え酵素の発現と肥満度や血中コレステロール値は、負の相関を持つことを明らかにしました。肥満や生活習慣病に対する新たな治療法や予防法への応用につながる成果です。

本研究成果は、科学誌iScienceオンライン版に3月18日に掲載され、4月19日27巻4号に掲載されます。

図1. 野生型マウスでは寒冷刺激によってJMJD1Aがリン酸化され、BATではクロマチンルーピングを介して熱産生を促し、WATではヒストン脱メチル化を介してベージュ化、ミトコンドリア増生を促進しています。脱メチル化活性を失ったJmjd1a-HYマウスではBATの活性化は起こるが、ヒストン脱メチル化を介したWATのベージュ化、ミトコンドリア増生を起こせず、エネルギー消費量が低下して肥満とインスリン抵抗性を呈します。

【用語解説】

注1. エピゲノム:塩基配列以外の後天的に書き換えられる遺伝情報。DNAのメチル化修飾や、ヒストンのメチル化、アセチル化などの翻訳後修飾などが知られる。

注2. ミトコンドリア:酸化的リン酸化を行い、エネルギーを消費しATPを合成する細胞内小器官。脱共役反応による熱産生も行う。

注3. ベージュ脂肪細胞:脂肪を消費し、熱を産生する働きを持つ脂肪細胞。長期間の寒冷刺激で、皮下の白色脂肪組織中に出現する。

注4. エピゲノムの書き換えを行う酵素:ヒストンの翻訳後修飾を付加する酵素や除去する酵素などが知られる。

注5. ミトコンドリア増生:ミトコンドリアの数が増えること。寒冷刺激を受けて出現するベージュ脂肪細胞では、ミトコンドリアの数が増えて熱産生を促進させる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科分子代謝生理学分野 教授 酒井 寿郎(さかい じゅろう)
TEL:022-717-8117
Email: jmsakai*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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