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製造容易性に優れた確率論的コンピュータを開発 ─半導体とスピントロニクスを組み合わせて超省エネAI計算─

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 教授 深見俊輔
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 人工知能(AI)で多く用いられる確率的なアルゴリズムを効率的に実行できるコンピュータの開発が喫緊の課題となっています。
  • この用途に適し、製造が容易な確率論的(注1コンピュータ(注2を半導体回路と少数スピントロニクス(注3素子の組み合わせで実現しました。
  • 将来的には現行の半導体技術と比べて面積を約4桁小さくでき、エネルギー消費を3桁減らせることを確認しました。

【概要】

昨今の人工知能や機械学習では、確率的なアルゴリズムが様々な形で利用されています。一方でその演算自体は物理的には決定論的(注1)に動作する半導体回路で実行されており、ソフトとハードに不整合があります。人工知能や機械学習による社会変革が進展する中、この不整合を解消して更なる高度化、消費エネルギーの大幅な低減を実現することが期待されています。

今回、東北大学電気通信研究所の小林奎斗(けいと)大学院生(研究当時)と深見俊輔教授らは、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校のKerem Camsari博士らと共同で、確率的なアルゴリズムの実行に適し、かつ製造容易性にも優れた近未来版の確率論的コンピュータを開発し、その動作を検証しました。自然の熱で確率的に揺らぐスピン素子が生成する物理乱数(注4)で疑似乱数(注4)生成半導体回路を駆動することで、優れた計算性能が得られることを確認しました。加えて確率動作スピン素子を主体とする最終形態の確率論的コンピュータでは、現行の半導体回路で確率的な計算を行う場合と比べて4桁程度の小面積化と3桁程度の省エネ化がもたらされることを明らかにしました。

今回開発された近未来版の半導体・スピン融合確率論的コンピュータは、現行の人工知能、機械学習向け半導体回路の課題を克服するものです。今後研究開発が進展し、計算性能と省エネ性に優れたスピントロニクス確率論的コンピュータの先陣に立って社会実装されていくことが期待されます。

本研究成果は、2024年3月27日(英国時間)に科学誌Nature Communicationsに掲載されました。

図1. 本研究の位置付けを整理した模式図。既存技術である決定論的に動作する半導体回路からなるコンピュータ(上段)、本研究にて動作実証した半導体回路と少数の確率動作スピン素子からなる近未来版の確率論的コンピュータ(中段)、及び本研究にて性能を予測した多数の確率動作スピン素子からなる最終形態の確率論的コンピュータ(下段)。右側に回路面積、消費電力、及び製造技術の比較が示されている。

【用語解説】

注1. 決定論的、確率論的
 現在のコンピュータによる演算では、入力情報に対して出力情報が一意に決まる。このような演算の仕組みを「決定論的」演算と言う。それに対して出力を一意に決めず、統計的な手法で決定する演算の仕組みを「確率論的」演算と言う。

注2. 確率論的コンピュータ、確率ビット
 確率ビット(Pビット)とは、短時間で0と1の信号を確率的に出力し、かつ各ビットを電気的に相関させられる情報処理の基本単位。確率論的コンピュータは確率ビットを用いて演算を行うコンピュータ。
 確率ビットは0と1の重ね合わせ状態を持ち、かつビット間でもつれあい(相関状態)を形成できる量子ビットとは本質的に異なるが一定の類似性があり、確率論的コンピュータは量子コンピュータと並んで新概念コンピュータの一つとして注目されている。1981年にリチャード・ファインマンが行った講演において、量子コンピュータと並んで、確率的な現象を効率的に計算する仕組みとして紹介されている。

注3. スピントロニクス
 物質中の電子が持つ、電気的な性質(電荷)と磁気的な性質(スピン)が協調することによって発現する現象を理解し、工学的な応用を目指す学問分野。特に、磁性体のスピンの向き(上・下)を情報(0,1)の担い手として制御する、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)や磁気センサー等への応用が代表的。

注4. 乱数、物理乱数、疑似乱数、LFSR、Xoshiro
 01010101、0000111100001111のような法則性を持たず、完全にランダムに並んだ数の列を乱数列と言う。物理乱数とは、ランダムな物理現象(例えばサイコロの目など)によって生成される乱数を指し、一方、疑似乱数とは決定論的(確定的)な計算によって出力される乱数を指す。
 決定論的に動作する半導体回路を用いて疑似乱数を生成することができる。線形回帰シフトレジスタ(Linear Feedback Shift Register: LFSR)は代表的な疑似乱数生成回路であり、ある初期値を与えるとそれに基づいてある周期内でランダムな乱数列が生成され、またその周期は回路規模で決まる。Xoshiroは、ある数列にXOR演算、SHIFT演算、ROTATION演算を行うことでそのランダム性を高める回路、あるいは数学的な処理を指す。
 多くのプログラミング言語に乱数出力専用の関数(rand()など)が組み込まれているが、その多くはランダム性に問題があることが指摘されている。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
教授 深見 俊輔
TEL: 022-217-5555
Email: s-fukami*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(兼)東北大学大学院工学研究科電子工学専攻
(兼)東北大学先端スピントロニクス研究開発センター (CSIS)
(兼)東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター (CIES)
(兼)東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
(兼)稲盛科学研究機構 (InaRIS)

(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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