2024年 | プレスリリース・研究成果
磁性の微視的情報からスピン流の挙動を予測可能 ─大幅な省エネを実現するスピントロニクスの進歩に貢献─
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 准教授 南部雄亮
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- スピントロニクス(注1)の研究では情報処理の担い手となるスピン流(注2)が重要ですが、微視的な観点からの理解は進んでいませんでした。
- 磁性絶縁体で生じるスピン流の温度変化が、磁気励起(注3)分散およびマグノン極性の情報から予測可能であることを見出しました。
- 磁気励起の微視的情報によって絶縁性磁性体におけるスピン流の予言が可能となり、スピン流伝搬の高効率化に適した物質の開発に繋がることが期待されます。
【概要】
大幅な省エネを実現するスピントロニクス技術では、スピン自由度の流れ、つまりスピン流が重要な要素です。これまでは生成されたスピン流を電圧の情報に変換して巨視的に観測することが一般的でした。しかし、運動量・エネルギー空間における情報など、微視的な視点での理解は進んでいませんでした。エレクトロニクスにおける電流と同様に、スピントロニクスにおけるスピン流は構成素量である点で重要ですが、その温度変化の予言も難しい状況でした。
東北大学金属材料研究所の川本陽大学院生(研究当時)と南部雄亮准教授らの研究グループは、磁性絶縁体に対して熱的に生成したスピン流の信号測定と偏極中性子散乱(注4)実験を行い、スピン流の温度変化が磁気励起分散とマグノン極性(磁気モーメントの歳差運動の回転方向)の情報によって理解できることを明らかにしました。
本研究により、絶縁性磁性体におけるスピン流の予言が可能となり、スピントロニクスやその進化系であるマグノニクス(注5)の分野において新たな展望が開かれることが期待されます。
本研究成果は、米国物理学協会(AIP)が発行するApplied Physics LettersのSpecial Collection "Magnonics"において、2024年3月27日付けで公開されました。さらにFeatured Article(注目論文)とAIP Publishing Showcaseに選出されました。
図1. スピン流信号の温度依存性と偏極中性子散乱により観測された310 Kと160 Kにおける磁気励起分散のマグノン極性。
【用語解説】
注1. スピントロニクス
従来の電子の電荷としての性質を利用するエレクトロニクスに電子が持つ磁石の性質(スピン)を取り入れる技術のこと。
注2. スピン流
電荷の流れである電流と対比して、電子スピンの流れのこと。
注3. 磁気励起
磁性体における全体のエネルギーが最も低い安定な状態(基底状態)からエネルギーが高い状態(励起状態)への遷移のこと。
注4. 偏極中性子散乱
中性子の持つスピン自由度に注目した中性子散乱手法のこと。散乱前後の中性子スピンの向きを観測することにより、中性子スピンを揃えない非偏極散乱の場合と比べて得られる情報が増える。
注5. マグノニクス
磁性体において、スピン波や量子化されたマグノンを制御することでデバイス応用を目指した次世代技術のこと。スピントロニクスはスピンを電子と一体のものとして扱うのに対し、マグノニクスでは、電子とスピンを切り離し、主にスピン波の非線形ダイナミクスや干渉効果などを利用することを目的とする。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学金属材料研究所
准教授 南部雄亮
TEL:022-215-2327
Email:nambu*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL:022-215-2689 FAX:022-215-2482
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています