本文へ
ここから本文です

電気を流し、室温強磁性を示す希土類酸化物を発見 スピントロニクス材料としての応用に期待

【本学研究者情報】

〇大学院理学研究科化学専攻
教授 福村 知昭(ふくむら ともてる)
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 酸化ガドリニウムGd2O3は最も安定な酸化物として知られていますが、準安定で高純度の岩塩構造GdOの薄膜の合成に成功しました。
  • 合成したGdOは強磁性を示し、磁性を失うキュリー温度(注1は最高で303 K(30℃)であることがわかりました。
  • GdOは起電力が生じる異常ホール効果(注2を示すため、磁化シグナルを電気的に検出することができるスピントロニクス(注3用の材料として期待できます。

【概要】

 強磁性体は次世代メモリに利用できるスピンロニクス材料として期待されています。希土類元素(注4)RR: Sc、Y、ランタノイド)の安定な酸化物はR2O3で、非磁性の物質が多く、絶縁体のため電気が全く流れません。そのため電気や磁気の性質を使う機能材料としては利用されていません。ところが最近、単純な岩塩構造をもつROという準安定な酸化物を合成できることがわかってきました。このROには高い電気伝導性や磁性が発現します。我々の研究グループはこれまでに、ROの一種である酸化ガドリニウム(GdO)の薄膜合成に成功し、強磁性体であることを確認しました。しかし不純物が多く、キュリー温度は276 K(3℃)に留まり室温では機能材料として利用できませんでした。

 東北大学大学院理学研究科の福村知昭教授ら、東京都立大学大学院理学研究科の岡大地准教授、東北大学大学院工学研究科・材料科学高等研究所(WPI-AIMR)・国際集積エレクトロニクス研究開発センター・先端スピントロニクス研究開発センター、東京大学理学系研究科からなる研究グループは、GdOの薄膜合成の際に、CaOを薄膜成長の下地の層として用いることで、高純度のGdO薄膜が得られ、電気伝導性が向上し、キュリー温度も303 K(30℃)まで上昇させることに成功しました。異常ホール効果を示すため、磁化シグナルを電気的に検出することが可能で、スピントロニクス材料として期待できます。

 本研究成果は、2024年5月10日18時(日本時間)に科学雑誌Journal of Materials Chemistry Cに掲載されました。

図1. GdO薄膜の断面構造。先行研究ではCaF2基板の上に直接GdO薄膜を成長していたが、本研究ではGdO薄膜の直下にCaOバッファー層を形成して、薄膜と基板の結晶格子のミスマッチを解消した。

【用語解説】

注1. キュリー温度:
強磁性体が強磁性の性質を示す上限の温度。キュリー温度以上の温度では、常磁性になり、磁石の性質は示さない。

注2. 異常ホール効果:
ホール効果は、磁場中の物質に、磁場と垂直方向に電流を流すと、磁場と電流に直交する方向に起電力が生じる現象である。起電力が磁場と電流の大きさに比例するのが正常ホール効果で、磁場センサーに用いられる。異常ホール効果は、磁場でなく物質の磁化に比例する起電力が生じるため、起電力を測定することで磁化の大きさがわかる。

注3. スピントロニクス:
従来の電子の電荷としての性質を利用するエレクトロニクスに電子が持つ磁石の性質(スピン)を取り入れる技術のこと。

注4. 希土類元素:
特殊な形状の4f軌道に電子が0個から14個まで満たされていく元素群をランタノイド元素と呼ぶ。それらにスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を合わせたものが希土類元素。レアアースとも呼ばれる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科化学専攻
教授 福村 知昭(ふくむら ともてる)
TEL: 022-795-7716
Email: tomoteru.fukumura.e4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
TEL: 022-795-6708
Email: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs09

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ