本文へ
ここから本文です

テロメラーゼ逆転写酵素がこれまで知られていなかった機序でがん化を促進することを発見―肉腫を含むがんの新たな治療法の開発に期待―

【本学研究者情報】

大学院医学系研究科抗体創薬学分野 教授 加藤幸成
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)注1は、がんの発生や進展に広く関与していることが知られていますが、hTERTが新たな機序でがん化を促進することを明らかにしました。
  • 元来、hTERTはテロメアと呼ばれる染色体末端を伸ばすことでがん化に関わるとされてきましたが、本研究は、hTERTが、がん細胞にとって有害なゲノム異常注2を排除し、がんの生存に有利に作用していることを発見しました。
  • 多数のがん種を調べたところ、従来hTERTが存在しないとされていた肉腫注3でも、この機能が確認されました。
  • 今回発見したhTERTの新たな機能を阻害したところ、がん細胞が死滅することも確認され、hTERTの新たな機能を標的にした治療法の開発につながることが期待されます。

【概要】

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)研究所(所長:間野博行)がん幹細胞研究分野の増富健吉 分野長、町谷充洋 研究員、野村祥 任意研修生(東海大学医学部医学科整形外科学 助教)を中心とする共同研究グループは、テロメア注4と呼ばれる染色体末端を伸ばすことでがん化に関わる(図1左)とされてきたテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)が、これまでとは異なる酵素活性によって、がん化を促進することを明らかにしました(図1右)。がん細胞は増殖する過程で、細胞死につながるゲノム異常が蓄積しますが、hTERTがRNAを合成することで、そのゲノム異常を排除することを見出しました(図1右)。すなわち、このhTERTの新たな機能は、ゲノムを修復して、がん細胞の生存を促進していました。

hTERTの存在を、さまざまながん細胞で調べたところ、この仕組みは、hTERTが存在しないと思われていた肉腫でも確認されました。さらに、このhTERTの新たな機能を阻害することで、がん細胞は生存できなくなり、死滅することが明らかになりました。これらの結果から、今後、hTERTのゲノム修復機能を標的にした新たながん治療法の開発につながることが期待されます。

本共同研究グループは、東海大学医学部医学科外科学系整形外科学の渡辺雅彦 教授、同・医学科基礎医学系分子生命科学の谷口俊恭 教授、金沢大学医薬保健研究域医学系消化器内科学の山下太郎 教授、がん研究会がん研究所がん生物部の斉藤典子 部長、東北大学大学院医学系研究科抗体創薬学分野の加藤幸成 教授らにより構成されたグループです。

本研究成果は、2024年5月28日に英国科学誌「Nature Cell Biology」に掲載されました。

図3 肉腫におけるテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の機能

左図:骨肉腫細胞を用いた解析で、hTERTの発現が確認された(緑色)。
右図:骨肉腫細胞から集めたhTERTのRNA合成活性を調べた実験。人工的に合成したRNAを鋳型にして、RNAが合成されたことを確認。

【用語解説】

注1.テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT) テロメラーゼは、テロメアとよばれる染色体DNAの末端に特徴的な反復配列を付加する酵素であり、多くのがんで発現が上昇し、がん細胞の不死化につながる。テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)は、テロメラーゼの主要サブユニットの一つで、テロメアにTTAGGGを付加する活性を示す。近年、テロメラーゼに関連しないhTERTの新たな機能が明らかになり、分子機序などに関する解明が進められていた。

注2.ゲノム異常 我々の遺伝情報が格納されているゲノムDNAに生じる有害な変化。ゲノムDNAを構成する塩基の挿入、欠失、置換などの変異や特定のDNAが複数生じるコピー数異常が知られている。その他に、通常の二本鎖DNAの構造が変化する構造異常も含まれる。

注3.肉腫 全身の骨や軟部組織(筋肉、脂肪など)から発生する悪性腫瘍。代表的なものとして、骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、平滑筋肉腫などがある。発生頻度は、悪性腫瘍全体の1%以下であり、希少がんである。

注4.テロメア 染色体DNAの末端にある構造で、染色体末端を保護する機能を持つ。哺乳類ではTTAGGGの塩基の繰り返し配列とタンパク質から成る。正常細胞は分裂するたびにテロメアが少しずつ短くなり、細胞分裂の停止につながる。一方で、がん細胞は、テロメアを伸長させる酵素であるテロメラーゼの発現上昇や、隣り合うテロメア配列同士をコピーする相同組換えという機序でテロメアの短縮を防いでいる。

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

大学院医学系研究科・医学部広報室
電話:022-717-8032
Email:press*pr.med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

sdgs_logo

sdgs03

東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています

このページの先頭へ