2024年 | プレスリリース・研究成果
小惑星リュウグウに存在するマグネシウム炭酸塩の形成史と始原的なブライン(brine)の化学進化を解明
【本学研究者情報】
〇大学院理学研究科地学専攻
教授 中村智樹(なかむらともき)
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 小惑星リュウグウから採取されたサンプルを複数種類の溶媒で抽出し、始原的なブライン(brine)の組成を明らかにした。水と鉱物との相互作用による溶存イオン成分として、ナトリウムイオン(Na+)が最も多く含まれることを明らかにした。
- さらに、小惑星リュウグウのサンプルから見いだした微小な炭酸塩鉱物(ブロイネル石)を単離・同定し、高精度同位体質量分析法によるマグネシウム同位体組成の測定を行うことで、リュウグウに存在した初生的な母岩と水との相互作用(水質変成)の過程で、二次鉱物として炭酸塩が形成されたことを明らかにした。
- 本成果は、地球が誕生する以前の太陽系において物質はどのように存在していたのか、また、地球、そして海水の組成を規定する化学進化を探求する上で重要な知見となる。
【概要】
能利用部門 生物地球化学センターの吉村 寿紘(としひろ)副主任研究員と高野 淑識(よしのり)上席研究員、国立研究開発法人産業技術総合研究所の荒岡 大輔 主任研究員、国立大学法人九州大学大学院理学研究院の奈良岡 浩 教授らの国際共同研究グループは、国立大学法人東京大学、株式会社堀場テクノサービス、国立大学法人北海道大学、国立大学法人東京工業大学、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学の研究者らとともに、小惑星リュウグウのサンプルに含まれるブロイネル石(Breunnerite)(*1)などのマグネシウム鉱物や始原的なブライン(brine)(*2)の精密な化学分析を行うことで、その組成や含有量などを明らかにしました。
小惑星リュウグウは、地球が誕生する以前の太陽系全体の化学組成を保持する、最も始原的な天体の一つです。これまでさまざまな研究グループの分析により、鉱物・有機物と水が関わる水質変成(2023年9月18日既報、2024年7月10日既報)が明らかとなってきましたが、いわゆる「ブライン(brine)の化学組成とイオン性成分の沈殿」に関する反応履歴は、未だ不明のままでした。
そこで本研究では、小惑星リュウグウのサンプルから微小な炭酸塩鉱物(ブロイネル石)の単離・同定と陽イオン成分の溶媒抽出を行い、精密な化学組成分析を行いました。その結果、リュウグウに含まれる鉱物と最後に接触した水の陽イオン組成は、ナトリウムイオン(Na+)に富んでいることがわかりました。リュウグウにはマグネシウムに非常に富む鉱物が複数存在しており、これらが水からマグネシウムを除去した際の沈殿順序を解明しました。ナトリウムイオンは、鉱物や有機物の表面電荷を安定化させる電解質として働いたと考えられます。 本成果は、初期の太陽系の化学進化を紐解くものであるとともに、始原的なブライン(brine)の物質情報、炭素質小惑星上での水-鉱物相互作用の一次情報を提供した重要な知見となります。
本研究の一部は、科研費 基盤研究(課題番号:21H01204・20H00202・21H04501・21H05414)、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化、21KK0062)、学術変革領域研究(21H05414)、特別研究員奨励費(21J00504)による研究助成の支援を受けて実施されました。
本成果は、2024年9月5日付(日本時間)で科学誌「Nature Communications」に掲載されます。
小惑星探査機「はやぶさ2」が、小惑星リュウグウに含まれるブロイネル石(Breunnerite、右下の顕微鏡写真)を地球に帰還させるイメージ図(©JAMSTEC)
【用語解説】
*1 ブロイネル石(Breunnerite):鉄を含む炭酸マグネシウムの一種で、化学式は (Mg,Fe)CO3と示される。マグネシウムと鉄の置換作用により、マグネシウムと鉄の割合が変化する。本論文では、リュウグウサンプルから、ブロイネル石を単離し、レーザー顕微鏡による非破壊分析法および高精度同位体質量分析計による破壊分析法を用いて、精密な解析を行うとともに、鉱物沈殿のモデルシミュレーション解析と合わせて統合的な評価を行った。
*2 ブライン(brine):ブラインとは、塩化ナトリウムや塩化マグネシウムなどの塩分を含んだ水を意味する。かつて、豊かな水が存在した小惑星リュウグウでは、「水質変成」と呼ばれる水―鉱物―有機物の相互作用によって母岩に含まれる初期物質が溶解し、イオン性の成分が形成された。本論文では、それらの始原的なブライン(Primordial brine)の物質情報について報告している。
*「はやぶさ2初期分析チーム」の【石の物質分析チーム】は東北大学大学院理学研究科の中村智樹教授がチームリーダーを担当されています。
「はやぶさ2初期分析チーム」につきましては、既出のプレスリリースをご覧ください。
・「はやぶさ2」初期分析チーム
2021年6月より試料の分析開始(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20210513-11586.html)
・リュウグウはイヴナ型炭素質隕石でできている(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20220610-12128.html)
・炭素質小惑星リュウグウの形成と進化:リターンサンプルから得た証拠(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20220926-12281.html)
・小惑星リュウグウ試料の希ガスおよび窒素同位体組成―リュウグウ揮発性物質の起源と表層物質進化―(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221021-12313.html)
・「はやぶさ2」ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル:リュウグウからのたまて箱(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221021-12314.html)
・日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20221220-12416.html)
・小惑星リュウグウの石から太陽系最初期にできた可能性のある物質を発見 ─原始太陽系星雲内側で形成し、太陽から遠いリュウグウ母天体まで運ばれたか─(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230217-12499.html)
・小惑星リュウグウ試料中の黒い固体有機物(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230224-12512.html)
・炭素質小惑星(162173)リュウグウの試料中の可溶性有機分子(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20230224-12510.html)
・小惑星リュウグウでみつかった窒化した鉄の鉱物―太陽系の遠方から辿り着いた窒素に富む塵―(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20231201-12970.html)
・リュウグウの岩石試料が始原的な隕石より黒いわけ 地球に飛来した隕石は大気と反応し「上書き保存」されて明るく変化した(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20231207-12979.html)
・小惑星リュウグウに彗星塵が衝突した痕跡を発見 太陽系遠方から有機物を含む彗星の塵が供給されていたことを示唆
(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240122-13033.html)
・リュウグウ試料に初期太陽系の新しい磁気記録媒体を発見~太陽系磁場の新たな研究手法の確立に期待~
(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240430-13200.html)
・小惑星リュウグウの水に満ちた化学進化の源流と水質変成の証拠―アミノ酸や核酸塩基にいたる原材料を発見―
(https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20240711-13300.html)
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院理学研究科地学専攻 教授
中村 智樹(なかむら ともき)
電話:022-795-6651
Email:tomoki.nakamura.a8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
Email:sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)