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前期白亜紀の海洋無酸素事変は遠洋の深海域まで及んでいなかった事を解明 -海洋無酸素事変の規模見直しを迫る成果-

【本学研究者情報】

〇東北アジア研究センター 教授 平野直人
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 常呂帯(北海道北東部)に分布するマンガン酸化物鉱床は、前期白亜紀の海洋無酸素事変の最中に、遠洋の海洋島で起きた海底熱水活動によって形成した事を明らかにしました。
  • マンガン酸化物の形成には酸化的環境が必須であるため、海洋無酸素事変の最中においても遠洋域の海洋深部は酸素に富んでいた事が証明されました。
  • 遠洋域の海洋深部が酸化的であったという本研究の成果は、急速な温暖化に伴う海洋無酸素事変が生態系や海洋循環に与えた影響を評価する上で非常に重要です。

【概要】

地球史上において、海洋が無酸素化する海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Event、以下OAE)が何度も発生していた事が知られています。OAEの発生には急激な温暖化が関連している場合が多く、温暖化が人類共通の課題となっている現代において、過去のOAEが生態系や海洋循環に与えた影響を正確に評価する事は非常に重要です。しかし、白亜紀前期の11955万年前から111.6万年間続いたOAE 1a注1において、無酸素状態が遠洋の深海域まで達したかどうかは未確定でした。

北海道の北東部に分布する常呂帯は、ジュラ紀から白亜紀に海底で形成した堆積岩や火成岩からなります。常呂帯を構成する仁頃層群には鉄酸化物鉱床およびマンガン酸化物鉱床が胚胎しており、戦後しばらくまで採掘されていました(図1から図3)。本研究では、鉄酸化物鉱石およびマンガン酸化物鉱石の化学組成やオスミウム(Os)同位体比注2から、両者の形成過程を明らかにしました(図4)。その結果、鉄酸化物鉱床は中期ジュラ紀のカロビアン期(16530万年-16150万年前)に中央海嶺注3で起きた熱水活動によって形成し、マンガン酸化物鉱床は前期白亜紀(約12000万年前)に海洋島注4で起きた熱水活動によって形成したことが明らかになりました。さらに、鉄酸化物鉱石のOs同位体比から、後期ジュラ紀OAE注5の引き金となった温暖化の発生直前のカロビアン期において、既に中央海嶺における火山活動(二酸化炭素放出)が活発であったことが明らかになりました。一方、マンガン酸化物鉱石のOs同位体比から、仁頃層群西部のマンガン酸化物鉱床はOAE 1a発生の直前(約12400万年-11955万年前)に、仁頃層群南部のマンガン酸化物鉱床はOAE 1a発生中(11950万年-11850万年前)に形成したと考えられます。酸化的環境でなければマンガン酸化物は形成されないため、OAE 1a発生時においても遠洋域の深海底では酸素に富んだ状態が維持されていたことが示されました。

本研究は千葉工業大学、東北大学、東京大学の研究チームによって実施され、202557日にOre Geology Reviews誌に掲載されました。

図1. 試料採取地点。本研究では、福山鉱山、柴山鉱山、国力鉱山から鉄酸化物鉱石を、若狭鉱山、日の出鉱山、小利別鉱山からマンガン酸化物鉱石をそれぞれ採取した。

【用語解説】

1OAE 1a
OAE 1aは11955万年前から111.6万年間続いた海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Event: OAE)であり、白亜紀に起きた複数のOAEの中でも最大規模と考えられている。大規模な火山活動によって急激な温暖化が発生し、海洋表層の生物生産が増加したことで海洋の無酸素化が進んだと考えられている。

2:オスミウム(Os)同位体比
海洋のOs同位体比(187Os/188Os)は火山活動が活発な時代に低下し、大陸の風化が活発な時代に上昇する。Os同位体比は全海洋で均一であり、海洋で形成する堆積物に記録される。

3:中央海嶺
上部マントルから上昇したマグマが噴出し海洋プレートが生まれる場所。いくつもの火山が連なっている。

4:海洋島
ホットスポットで形成した火山島を指す。現代のハワイ島に代表される。

5:後期ジュラ紀OAE
15000年前に温暖化によって起きたと考えられているOAE。海洋の無酸素化を示唆する硫化物鉱床(別子型鉱床)や石油根源岩の形成が広範囲で報告されている。

【論文情報】

論文題目:Origin of ferromanganese deposits in the Jurassic to Cretaceous accretionary complex: Implications for the deep-sea environment around ocean anoxic events
著者:Keishiro Azami (浅見慶志朗)1, Koichiro Fujinaga (藤永公一郎) 1、3, Naoto Hirano (平野直人)2, Yasuhiro Kato (加藤泰浩)3、 1
1千葉工業大学、2東北大学、3東京大学
掲載紙:Ore Geology Reviews
DOI:10.1016/j.oregeorev.2025.106661

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学東北アジア研究センター
教授 平野直人
TEL:022-795-3618
E-mail:nhirano*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学東北アジア研究センター
広報運営室
平野直人
TEL:022-795-3618
E-mail:nhirano*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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